スタートアップ1/3減免に年間上限——中小企業が今すぐ確認すべき2026年度の特許費用制度

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特許庁は2026年度から、スタートアップ向けの審査請求料・特許料「3分の1減免」に年間180件の利用上限を設けた。中小企業向けの「2分の1減免」は従来どおり継続されるが、両制度の要件と上限の違いを理解しないまま出願計画を立てると、予期せぬコスト増が生じるリスクがある。特許庁ステータスレポート2026が改めて公表された今、自社の区分と制度活用の優先順位を点検するタイミングだ。

2026年度に何が変わったのか——スタートアップ減免に「上限180件」が登場

特許庁は、中小企業・スタートアップが知財取得コストを抑えられるよう、審査請求料および特許料(1〜10年分)の減免制度を設けている。2026年度も引き続き、中小企業は「2分の1」、スタートアップは「3分の1」に減額される枠組み自体は維持されている。

しかし2026年度から、スタートアップ向けの1/3減免には年間180件の上限が新たに設けられた。1社あたりの出願件数が多い企業は、この上限を超えた出願分については通常の中小企業向け1/2減免が適用されることになり、コスト計画に直接影響する。出願を計画している企業は、年間の出願本数と減免適用の優先順位をあらかじめ整理しておく必要がある。

一方、「中小企業」に該当する事業者(中小企業基本法に定義される法人・個人事業主・小規模企業者)の1/2減免は、件数上限が設けられておらず従来どおり利用できる。自社がスタートアップ区分と中小企業区分のどちらに当たるかを正確に確認することが、まず第一歩となる。

「スタートアップ」と「中小企業」——制度上の定義の違いを整理する

実務上、混同されがちなのが「スタートアップ」と「中小企業」の区分だ。特許庁の減免制度においてスタートアップとは、基本的に設立から10年未満の法人が要件となる。個人事業主から法人成りした場合は法人設立日が起算日となる。また、大企業(資本金額または出資総額が3億円超の法人)に支配されていないことも条件のひとつで、大企業の子会社やグループ会社には適用されない。

中小企業区分は中小企業基本法の定義に従い、製造業であれば資本金3億円以下または従業員300人以下の法人などが該当する。設立年数は問わないため、創業10年を超えた中小企業でも1/2減免の対象になる。スタートアップ要件を外れた後も、中小企業要件を満たしていれば引き続き減免を受けられる点は見落とされがちだ。

なお、スタートアップ区分の減免申請にあたっては、自社がスタートアップ要件を満たすことを出願時または審査請求時に所定の書面で申告する必要がある。特許庁のホームページで最新の申請手続きを事前に確認しておきたい。

  • スタートアップ1/3減免:設立10年未満の法人、大企業支配なし、年間上限180件
  • 中小企業1/2減免:中小企業基本法上の中小企業・個人事業主・小規模企業者、件数上限なし
  • どちらも対象:審査請求料、および1〜10年分の特許料

コスト感覚をアップデートする——減免を適用した場合の試算

特許出願から権利維持まで、費用の全体感を把握していない経営者は少なくない。請求項10項で審査請求した場合の通常の審査請求料はおよそ17万円とされているが、中小企業向け1/2減免を適用すると約8.5万円に軽減される。さらに特許料(1〜3年分)も半額になるため、出願から権利維持までのトータルコストで数十万円単位の節約が可能だ。

スタートアップの1/3減免であれば、同じ審査請求料が約5.7万円程度まで下がる計算になる。資金調達前のシード・アーリー期の企業にとっては特に大きな恩恵だが、前述のとおり年間180件の上限がある。複数の出願を計画している場合は、重要度の高い発明から優先的に申請し、上限を超えた分は1/2減免として処理する計画を立てておくことが現実的な対応策となる。

外国出願を視野に入れるなら、中小企業等海外出願支援補助金(INPIT・都道府県等が窓口となる外国出願補助金)との組み合わせも有効だ。2026年度からは「中間手続補助」として出願後の権利化費用もカバー対象に拡充されており、国内出願コスト削減と外国出願支援を合わせて活用する余地がある。

中小メーカー・知財担当者が今すぐ取れる3つのアクション

制度が整備されていても、使わなければ意味はない。以下の3点を自社の状況に照らして確認することを勧めたい。

第一に、「自社の区分」を確認する。設立から何年経過しているか、資本構成に大企業が入っていないかを改めて確認し、スタートアップ区分・中小企業区分のどちらに該当するかを明確にしておく。弁理士や知財総合支援窓口(INPIT)に相談するのも一つの方法だ。

第二に、「今期の出願計画」を書き出す。スタートアップ区分の場合は上限180件を念頭に、重要度の高い発明から減免申請の優先順位をつけておく。ポートフォリオが多い企業は、1件ごとの重要度評価を済ませた上で申請時期を調整したい。

第三に、「申請手続きの書類」を事前に準備する。減免申請には所定の書面提出が必要で、書式・添付書類の要件は特許庁のホームページで確認できる。審査請求のタイミングで書類が揃っていないとスムーズに申請できない場合があるため、出願前から準備しておくことが重要だ。なお、本記事は制度の概要を紹介するものであり、個別の出願判断や法的な適否については専門家に相談することを推奨する。

減免制度を活用するための3ステップ
1
STEP 1:自社の区分を確認
設立年数・資本構成を確認し、スタートアップか中小企業かを判定。不明な場合はINPIT知財総合支援窓口へ
2
STEP 2:出願優先順位を整理
スタートアップ区分は年間上限180件。重要度の高い発明から順に減免申請の計画を立てる
3
STEP 3:申請書類を事前準備
特許庁HPで最新の書式・添付書類を確認。審査請求時に書類が揃っているよう出願前から準備する

「コスト」ではなく「投資」として知財を捉え直す視点

特許取得費用を「とにかく安く抑えるべきコスト」として見る企業は多い。しかし減免制度の存在は、「費用を理由に特許を諦めていた」という状況を変えうる制度的な下地がすでに整っていることを示している。

特許庁ステータスレポート2026では、スタートアップ・中小企業・大学支援に関する施策の成果が取りまとめられており、支援制度の全体像を確認できる。自社の技術資産を守るための出願費用は、削減対象ではなく、事業継続と競争力確保のための先行投資として位置づけ直すことが、中長期的な知財戦略の出発点になる。

減免制度の活用はその第一歩に過ぎないが、「知らなかった」ために使えなかった——という事態だけは避けてほしい。自社の区分を確認し、今期の出願計画と照らし合わせる作業を、ぜひ今週中に始めてほしい。

よくある質問

Q. 設立9年目の中小企業です。スタートアップ1/3減免と中小企業1/2減免、どちらを使うべきですか?

A. 設立10年未満であればスタートアップ要件を満たす可能性がありますが、大企業支配の有無など他の要件も確認が必要です。スタートアップ区分には年間180件の上限があるため、出願件数が多い場合は超過分に中小企業1/2減免が適用されます。具体的な適否は弁理士やINPIT知財総合支援窓口にご相談ください。

Q. 個人事業主は減免制度を使えますか?

A. 中小企業向け1/2減免は個人事業主にも適用されます。スタートアップ向け1/3減免は「設立から10年未満の法人」が基本要件のため、個人事業主は原則として対象外です。詳細は特許庁のホームページで確認してください。

Q. 減免申請を忘れて審査請求してしまいました。後から申請できますか?

A. 原則として、減免申請は審査請求時または特許料納付時に所定の書面を提出する必要があります。事後的な申請については特許庁に直接お問い合わせいただくか、弁理士にご相談ください。

Q. 外国出願にも減免・補助金はありますか?

A. INPITや都道府県が窓口となる「中小企業等海外出願支援補助金」があります。2026年度からは出願後の中間手続費用も補助対象に拡充されました。国内出願の減免制度と組み合わせることで、知財取得コストをさらに抑えることができます。

出典:特許庁ステータスレポート2026をとりまとめました