PCT規則改正で「口頭発表」も先行技術に

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2026年1月1日、特許協力条約(PCT)の規則改正が発効し、国際調査・予備審査における「先行技術」の定義が大幅に広がった。従来は書面による開示に限定されていたが、口頭発表・展示・使用なども先行技術として扱われるようになった。中小メーカーや知財担当者が見落としがちな盲点と実務対応を整理する。

何が変わったのか――改正PCT規則の核心

特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の審査において、2026年1月1日以降に国際調査報告または第17条(2)(a)の宣言が作成される出願から、先行技術の定義が変わった。特許庁の公式ページによれば、従前のPCT規則では先行技術を「書面による開示」に限定していたが、改正後は「口頭による開示、使用、展示等の書面による開示以外の開示」も先行技術の定義に含まれるようになった。

さらに同時期の改正で、国際調査の対象資料も拡大された。従来は特許文献のみが最小限資料とされていたが、実用新案文献(国際事務局が公報に掲載したリストベース)も対象に加わった。中国・韓国など実用新案制度が発達した国々の文献が引例として用いられやすくなることを意味する。

この2つの変化は独立した改正だが、方向性は一致している。「世界中で公開・使用されているあらゆる情報を先行技術として評価する」という審査の実質化である。国際出願を行う企業にとって、従来の常識を根本から見直す必要がある。

なぜ中小メーカーこそ影響が大きいのか

大企業の知財部であれば、常設の特許調査チームが出願前クリアランスを実施し、学会発表・展示会への出品スケジュールと出願タイミングを管理しているケースが多い。しかし中小メーカーでは、「展示会に出してから特許を取る」「技術提案書を先方に渡してから出願を検討する」という流れが珍しくない。

今回の改正で恐ろしいのは、適用タイミングが「出願日」ではなく「国際調査報告が作成される段階」であることだ。つまり、出願自体は改正前に行っていても、国際調査報告の作成が2026年1月1日以降になれば、改正後のルールが適用される。自社の展示会でのデモや口頭説明、展示会出品が「先行技術」として引用されて、自社出願の新規性・進歩性が否定されるリスクが生じうる。

また、中国・韓国などは実用新案制度が活発で、類似技術の実用新案が先行技術として引用されるケースも増える可能性がある。「うちの技術は国内では先行文献がない」と安心していたが、海外の実用新案がブロックする、という事態が起きやすくなる。

「書面以外の開示」が先行技術になる――具体的にどんなケースが危ないか

改正前のPCT規則では、審査官は原則として書面化された文書(論文・特許公報・技術報告書など)しか先行技術として引用できなかった。改正後は、次のような情報も先行技術として扱われうる。

注意が必要なのは、従来は「グレーゾーン」だったケースが、今後は審査官に明確な根拠を与える点だ。法的には各国の国内段階移行後の審査に直接影響するわけではないが、PCT国際調査報告の見解書に否定的な評価が記載されれば、その後の各国審査でも不利になりやすい。

なお、実務的な注意点として、口頭発表や展示が「先行技術」として実際に引用されるには、審査官がその存在を把握できる必要がある。学会の抄録がウェブに公開されていたり、展示会の公式サイトに出品情報が掲載されていたりするケースでは、審査官が確認できる可能性が高まる。

  • 展示会・技術展でのデモ・出品(出品者リストや写真がウェブ公開される場合)
  • 学会での口頭発表(予稿集が電子化・公開されている場合を含む)
  • 取引先への技術提案プレゼンや現物提供(守秘義務がない場合)
  • YouTubeやSNSへの試作品・製造工程の動画投稿
  • クラウドファンディングサイトへの製品掲載

知財担当者が今すぐ取るべき3つのアクション

今回の改正を受け、中小メーカーの経営者・知財担当者が実務として整備すべき点を3つに絞って整理する。

第一は「公開前出願ルールの明文化」だ。展示会・学会・取材対応・SNS投稿のいずれも、外部に技術情報が出る前に出願(少なくとも国内優先権の基礎となる出願)を済ませることをルール化する。「出願してから公開」の順番を社内で徹底するだけで、大半のリスクは回避できる。

第二は「クリアランス調査の対象国・文献種別の見直し」だ。今回の改正により、中国・韓国の実用新案が先行技術として引用されやすくなった。特許文献だけをチェックしていた調査を、実用新案文献にも広げる必要がある。INPITが提供するJ-PlatPatでは中国・韓国の実用新案も検索できるので、まずは自社技術領域での実用新案文献の有無を確認することから始められる。

第三は「出願中の案件の国際調査スケジュール確認」だ。現在PCT出願中の案件で、国際調査報告がまだ作成されていないものは、今回の改正ルールの下で審査される。弁理士や特許事務所に現在の手続状況を確認し、自社の過去の公開・発表・デモが調査対象となりうるかどうかを事前に検討しておくことが望ましい。

PCT出願における「先行技術」リスクを防ぐ4ステップ
1
STEP 1:公開スケジュールの把握
展示会・学会・SNS投稿・取材など、外部に技術情報が出るすべての機会をリストアップする
2
STEP 2:出願先行ルールの確立
外部公開の前に国内出願(または仮出願)を完了させるルールを社内規程として明文化する
3
STEP 3:実用新案を含むクリアランス調査
J-PlatPatで中国・韓国の実用新案文献も含めた先行技術調査を実施し、障害文献の有無を確認する
4
STEP 4:PCT出願中案件のスケジュール確認
現在審査中のPCT案件について弁理士と国際調査報告の作成時期を確認し、自社の過去公開情報が引例になりうるか検討する

INPITの無料支援を活用する

「改正への対応が必要とわかったが、社内に専門家がいない」という中小メーカーにとって、頼りになるのがINPIT(工業所有権情報・研修館)の知財総合支援窓口だ。全国47都道府県に設置されており、弁理士・知財専門家に無料で相談できる。先行技術調査の手法、出願前の公開管理体制の整備、PCT出願の基礎知識まで幅広く対応している。

また、特許庁は中小企業向けに審査請求料・特許料の軽減制度を設けており、海外出願の費用負担を抑える補助金も各都道府県の支援機関を通じて活用できる場合がある。PCT規則改正を「うちには関係ない」と捉えるのではなく、これを機に海外出願戦略を整理するきっかけにしてほしい。

今回の改正は、特定の企業や業界を標的にしたものではなく、世界全体の特許審査の質を底上げするための国際的な制度整備だ。しかしその影響は、審査前に「先行技術を整理する」体制を持たない企業ほど大きく出る。制度の変化を把握し、先手を打った企業が特許の強さで差をつけられる時代になっている。

よくある質問

Q. 2025年以前に行ったPCT出願も影響を受けますか?

A. 今回の改正は「国際調査報告または第17条(2)(a)の宣言が作成される日」が2026年1月1日以降の出願に適用されます。出願日が2025年以前であっても、国際調査報告の作成が2026年1月1日以降であれば改正後のルールが適用されます。現在審査中の案件については、担当弁理士に確認することをお勧めします。

Q. 国内出願(日本国内のみの特許)も影響を受けますか?

A. 今回のPCT規則改正は、PCT(国際出願)の国際調査・予備審査の段階に適用されるものです。日本国内のみの出願(特許庁への国内出願)は直接の適用対象ではありません。ただし、国内審査における先行技術の考え方とも密接に関わることがあるため、出願前に技術情報を外部に公開しない「先行出願の原則」はいずれにおいても重要です。

Q. 中国・韓国の実用新案とは何ですか?日本の実用新案と同じですか?

A. 中国・韓国の実用新案は、日本の実用新案と同様に「考案」を保護する制度ですが、日本よりも出願件数が圧倒的に多く、特に中国では毎年数百万件規模の出願があります。今回の改正でこれらの文献が先行技術として引用されやすくなったため、自社技術の海外調査の際には実用新案文献も含めた検索が欠かせません。J-PlatPatの「外国特許」検索機能から中国・韓国の実用新案を検索できます。

Q. 展示会に出品する前に必ず特許出願しなければなりませんか?

A. 本記事は法的助言を提供するものではありません。一般論として、展示会等への出品前に出願を済ませておくことが、先行技術リスクを防ぐうえで有効とされています。ただし、日本では「公開から1年以内の出願」について新規性喪失の例外規定(特許法第30条)が存在します。ただしPCT国際出願においてすべての指定国でこの例外が認められるわけではないため、国際出願を予定している場合は弁理士にご相談ください。

出典:令和8年1月に発効する特許協力条約に基づく規則(PCT規則)の改正の概要