進歩性・均質性が鍵——審査品質調査が示す拒絶対策の急所

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特許庁は令和8年度の「審査の質についてのユーザー評価調査」報告書を公表した。分析の結果、国内出願において「判断の均質性」と「進歩性の判断の均質性」が全体評価への影響が最も大きい項目として浮かび上がった。この調査結果は、中小企業が拒絶理由通知にどう向き合い、どう反論を組み立てるかを考える上で、重要な羅針盤となる。

調査の概要——特許庁が毎年行う「通信簿」の中身

特許庁は平成24年度から毎年、特許審査に対するユーザー(出願人や、権利を行使される第三者など)のニーズや期待を把握するため、「審査の質についてのユーザー評価調査」を実施している。令和8年度版も同様のフォーマットで結果が取りまとめられ、特許・意匠・商標の各分野ごとにレポートが公開された。

調査の目的は明確だ。国際的に信頼される審査品質を維持し、企業のグローバルな事業展開を支援するためには、ユーザーの声を品質管理施策にフィードバックし続けることが不可欠と特許庁は位置づけている。単なる「満足度調査」ではなく、その結果が翌年度以降の審査官教育や協議制度の改善に直接反映される仕組みになっている点が重要だ。

今年度の焦点——「均質性」と「進歩性」が全体評価を動かす

令和8年度の分析では、国内出願において「判断の均質性」と「第29条第2項(進歩性)の判断の均質性」の2項目が、全体評価への影響が最も大きく、かつ相対的な評価が伸び悩む項目として確認された。

これは何を意味するのか。端的に言えば、「同じ技術内容の出願でも、担当する審査官・審査室によって拒絶・登録の判断がぶれる」と感じるユーザーが少なくないということだ。特に進歩性(特許法第29条第2項)は、引用文献の組み合わせ方や「動機づけ」の認定に審査官の裁量が入りやすい。同じ技術分野でも審査室が違えば結果が変わる経験をした出願人は多いだろう。

一方で特許庁も手を打っていない訳ではない。「判断の均質性」を優先項目と位置づけ、審査官同士の協議の充実や決裁手続きの整備を継続してきた経緯がある。それでも課題として残り続けているという事実が、この問題の難しさを物語っている。

中小企業の知財担当者が読み解くべき「実務への含意」

では、この調査結果を自社の知財実務にどう活かすか。「均質性に課題がある」という事実は、裏を返せば「出願人側の対応次第で結果が変わりうる余地がある」とも読める。以下の3点を意識してほしい。

第一に、拒絶理由通知は「交渉の入口」と捉えること。進歩性拒絶への反論では、審査官が示した「動機づけ」の論理を具体的に崩す意見書が有効だ。「引用文献Aと引用文献Bを組み合わせるべき理由がない」という主張を、技術常識や実施例を根拠に丁寧に組み立てることが、均質性のばらつきを超えるための基本戦略となる。

第二に、面接審査を積極的に使うこと。審査官との直接対話の場である面接審査(特許法第17条の2に基づく補正・意見の機会とは別に設けられた制度)は、特許庁が品質向上施策として推奨しているにもかかわらず、中小企業では利用率が低い傾向がある。審査官の懸念点を直接聞き、補正・意見の方向性を事前に調整することで、無駄な拒絶・再反論のループを短縮できる。

第三に、審査経過情報(包袋)の戦略的活用だ。自社技術分野における過去の登録事例と拒絶事例の審査経過をJ-PlatPatで確認し、どのような記載が審査を通過したかを把握しておくことが、出願書類作成の精度を高める近道になる。

  • 拒絶理由通知への意見書では「引用文献を組み合わせる動機づけがない」ことを技術常識・実施例で具体的に論証する
  • 面接審査を積極的に活用し、審査官の懸念を早期に把握する
  • J-PlatPatで同技術分野の審査経過(包袋)を調査し、通過した記載パターンを把握する
  • 弁理士・INPIT窓口と連携して意見書・補正書の品質を担保する
進歩性拒絶への反論——意見書作成の3ステップ
1
STEP 1:引用文献の「組み合わせ動機」を分析
審査官が示した引用文献A・Bを組み合わせるとした論理を精読し、「なぜ当業者がその組み合わせに至らないか」を技術的に整理する
2
STEP 2:自社技術の「課題と解決手段」を再言語化
引用文献には開示されていない技術的効果や課題解決の発想を明細書の実施例・効果記載から根拠として抽出する
3
STEP 3:面接審査で審査官に直接確認
意見書提出前に面接審査を申し込み、審査官の懸念点を直接ヒアリングして補正・反論の方向性を確認する

「均質性」問題は特許庁だけの責任ではない——出願側の準備が結果を変える

ユーザー評価調査の結果を見て「審査の品質が悪い」と結論づけるのは早計だ。全体的な満足度評価は依然として高い水準にあり、特許庁は審査の質の維持・向上に継続的に取り組んでいる。問題は、制度の「余白」にどう対応するかという出願人側の実力にある。

進歩性の判断は本質的に「グレーゾーン」を含む。明細書・請求項の記載品質が低ければ、審査官がどれほど均質な判断をしようとしても、技術内容が正確に伝わらず不利な結果を招くリスクが高まる。中小企業こそ、出願前の段階で「この技術の何が新しく、なぜ従来技術の単純な組み合わせではないか」を明細書に明示的に書き込む作業に時間とコストをかける価値がある。

特許庁の調査は毎年公表されており、トレンドの変化(評価が改善した項目・悪化した項目)を年度ごとに比較することで、制度運用の変化を先読みすることもできる。知財担当者にとって、この報告書は「読んで棚に上げる資料」ではなく、年度の出願戦略を組み立てるための実務ツールとして活用する価値がある。

今すぐ確認すべきリソースと相談窓口

INPITが全国に設置する「知財総合支援窓口」では、特許出願の意見書・補正書作成に関する無料相談が可能だ。弁理士費用の捻出が難しい中小企業でも、初期相談から専門家の紹介まで一貫して支援を受けられる。また、特許庁が提供するJ-PlatPatは誰でも無料で審査経過(包袋情報)を閲覧できるため、競合他社の出願がどのような経緯で登録または拒絶されたかを調べることができる。

令和8年度の調査報告書そのものは特許庁公式サイト(https://www.jpo.go.jp/resources/report/user/index.html)から無料でダウンロードできる。技術分野別の集計も含まれているため、自社の出願技術分野における評価傾向を確認することをお勧めしたい。

よくある質問

Q. 「判断の均質性」に不満があった場合、特許庁に申し出ることはできますか?

A. はい、特許庁では審査結果に対する意見を伝える窓口として「特許審査に関するご意見・ご要望」の受付を設けています。また、拒絶査定に不服がある場合は拒絶査定不服審判(特許法第121条)を請求することが制度的な対抗手段です。ただし、具体的な対応については弁理士や知財総合支援窓口にご相談ください。

Q. 面接審査はどうやって申し込むのですか?

A. 面接審査は、担当審査官への電話連絡または特許庁への書面申込みで行えます。特許庁の「面接審査ガイドライン」(特許庁公式サイト掲載)に具体的な手続きが記載されています。オンライン面接(ビデオ会議)にも対応しているため、遠方の中小企業でも活用しやすい環境が整っています。

Q. 中小企業でも無料で専門家に相談できる窓口はありますか?

A. INPITが全国47都道府県に設置する「知財総合支援窓口」では、弁理士や知財専門家による無料相談を受け付けています。意見書・補正書の方針検討から、出願戦略の立案まで幅広く対応しています。予約はINPIT公式サイト(inpit.go.jp)から行えます。

出典:令和8年度 特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書(特許庁、2026年10月公表)