2026年10月22日・23日、最高裁判所・知的財産高等裁判所・法務省・特許庁などが主催する「国際知財司法シンポジウム2026(JSIP2026)」が東京で開幕する。今回の目玉は「均等論の国際比較」。クレームの文言に完全には一致しない模倣品が現れたとき、特許権はどこまで及ぶのか——その答えが国によって大きく異なることを、中小企業の経営者・知財担当者は押さえておきたい。
JSIP2026とは何か——10回目を迎えた国際知財司法の祭典
「国際知財司法シンポジウム(JSIP)」は、最高裁判所・知的財産高等裁判所・法務省・特許庁・日本弁護士連合会・弁護士知財ネットの6機関が共催し、2017年から毎年開催してきた国際イベントだ。今年は第10回目の節目にあたる。
2026年10月22日(木)から23日(金)にかけて東京・弁護士会館で開催されるJSIP2026は、日本・韓国・欧州・米国の裁判官・弁護士・審判官等の実務家が集い、知的財産紛争解決に関する最新の議論を展開する。参加費・視聴費は無料(事前登録制)で、オンライン視聴にも対応しており、地方在住の企業担当者にも門戸が開かれている。
2日間のプログラムは「裁判所パート」と「特許庁パート」に分かれる。22日の裁判所パートでは模擬裁判2本と、「均等論の国際比較と未来の知財司法について」をテーマにしたパネルディスカッションが予定されている。23日の特許庁パートでは「公然実施発明の認定判断の国際比較」「不使用取消審判の国際比較」が取り上げられ、JSIP開催10周年記念パネルも行われる。
均等論とは何か——クレームの「外側」を守る盾
特許権の保護範囲は、原則として特許請求の範囲(クレーム)に記載された文言が基準となる。しかし、競合他社がクレームの表現をわずかに変えた製品や方法を採用した場合、文言通りの解釈では権利侵害が認定されないケースが生じる。そこで機能するのが「均等論(doctrine of equivalents)」だ。
均等論とは、被疑侵害品がクレームの文言とは厳密に一致しなくとも、技術的に本質的な部分が同じであれば特許権の侵害を認める法理論である。日本の知財高裁は、最高裁平成10年2月24日判決(ボール・スプライン軸受事件)が示した5要件に基づき、均等侵害の成否を判断している。5要件とは①非本質的部分、②置換可能性、③置換容易性、④特許出願時の公知技術との非同一性、⑤意識的除外の不存在である。
日本では均等論が認められるためのハードルは決して低くない。一方、米国や欧州・韓国ではその要件や運用が異なり、同じ技術的事実でも国によって侵害認定の結論が異なり得る。今回のJSIP2026が「均等論の国際比較」をメインテーマに据えたのは、グローバルに事業展開する企業にとって、国ごとの均等論の差異が権利行使の勝敗を左右しかねない実務上の重要課題だからだ。
なぜ今、中小メーカーに「均等論」が刺さるのか
大企業の特許部門がこうした国際動向をウォッチするのは当然として、中小メーカーや地方の製造業者こそ、均等論への理解を深めるべき理由がある。
第一に、「クレームの文言を回避した模倣品」への対応だ。中小メーカーが苦労して取得した特許も、競合がわずかに材料・形状・工程を変えた製品を投入してきた場合、文言侵害だけでは訴訟で勝てない可能性がある。均等論の要件を理解していれば、そもそも出願段階でクレームをどう書くべきかという判断精度が上がり、あわせて侵害が疑われる場面で「均等論での請求が成り立つか」を弁理士・弁護士と早期に検討できる。
第二に、海外展開・輸出先でのリスク管理だ。国内の特許が日本の均等論基準で守られていても、輸出先の国では均等侵害の要件が異なる。逆に、海外の競合が日本に参入してきた際、相手国で通用する均等論が日本では通じない場面もある。米国・欧州・韓国の均等論を横並びで議論する今回のJSIPの成果資料は、今後の公開資料として参照できる貴重な一次情報となるだろう。
第三に、特許ポートフォリオの「再点検」の契機になる。すでに特許を保有しているが「本当に守れているか分からない」という中小企業は多い。均等論を軸に自社のクレームを見直す機会として、今回の議論を活用することができる。
「均等論の国際比較」——日・韓・欧・米の主な違いを押さえる
国ごとの均等論の運用はそれぞれ異なる。以下に主要な相違点を整理する。なお、下記はあくまで一般的な制度の概要であり、個別事案への適用は専門家に相談すること。
- 【日本】最高裁が示した5要件を逐一満たす必要があり、「意識的除外」の有無が実務上の大きな争点になりやすい。出願過程で補正・意見書により除外した構成には均等が及ばないとされる。
- 【米国】「実質的に同じ機能を、実質的に同じ方法で、実質的に同じ結果を達成する」三要素テスト(function-way-result)が基本。ただしFile Wrapper Estoppel(出願経過禁反言)により出願時の補正で限定した事項には均等が及ばない。
- 【欧州(EPO・UPC)】特許請求の範囲の文言を超えた保護はプロトコル解釈によって認められ、発明の本質的要素かどうかが重要な判断基準となる。欧州統一特許裁判所(UPC)の本格稼働により、複数国で統一的な均等論の運用が進みつつある。
- 【韓国】日本の5要件に類似した要件が採用されているが、置換容易性の判断において進歩性との関係で独自の議論が展開されており、近年の判例動向に注目が集まっている。
中小企業・知財担当者が今すぐ取れる3つのアクション
JSIP2026の議論は、特許庁・知財高裁・法務省という公的機関の一次情報として将来公開される可能性が高い。これを最大限に活かすため、以下の具体的な行動を提案する。
- 【アクション①】JSIP2026をオンライン視聴・資料確認する——参加費・視聴費は無料。事前登録の上、シンポジウムを視聴し、公開される講演資料を入手しよう。均等論に関する各国の最新実務が一次資料として手に入る。公式サイト(jsip-tokyo.go.jp)で登録方法を確認すること。
- 【アクション②】自社の主力特許のクレームを「均等論」の観点で棚卸しする——弁理士と協力して、競合他社が文言を変えてきた場合に均等論での対応が可能かを点検する。特に「意識的除外」に該当する補正・意見書の記載がないかを出願経過で確認しておこう。
- 【アクション③】海外出願先の均等論ルールを把握する——主力製品を輸出・現地生産している国(米国・欧州・韓国など)の均等論の要件を整理し、現地代理人や国内の外国知財に詳しい弁理士と情報共有する。INPIT知財総合支援窓口(全国に設置)でも無料相談が可能だ。
まとめ——「取れた特許」より「使える特許」を目指して
特許は取得することがゴールではない。権利行使の場面で「本当に守れるか」を問われたとき、均等論の理解がその答えを左右する。JSIP2026は、日本の知財司法制度の国際水準をリアルタイムで確認できる、年に一度の貴重な機会だ。
中小メーカーの経営者にとっては、シンポジウムの内容そのものよりも「均等論という概念が国ごとに異なる」という事実を知ることが最初の一歩だ。この認識を持った上で弁理士や知財担当者と対話することが、特許を「守りの盾」から「攻めの武器」へと変える出発点になる。
よくある質問
Q. 均等論が認められると、どんな場面で有利になりますか?
A. 競合他社が自社特許のクレームの表現をわずかに変えた製品や製法を採用した場合でも、技術的に本質が同じであれば侵害と認定される可能性があります。文言侵害だけでは勝てないケースでも権利行使の選択肢が広がります。ただし均等侵害の成否は個別事案の判断になりますので、具体的な見通しは弁理士・弁護士に相談してください。
Q. JSIP2026には誰でも参加できますか?費用はかかりますか?
A. 参加費・視聴費は無料です。事前登録制となっていますので、公式サイト(jsip-tokyo.go.jp)で登録してください。会場観覧とオンライン視聴の両方が用意されており、地方在住の方でも参加可能です。
Q. 自社特許が均等論で守れるかどうか、どこに相談すればよいですか?
A. まずは担当弁理士または特許事務所にご相談ください。弁理士に心当たりがない場合、INPIT(工業所有権情報・研修館)が運営する「知財総合支援窓口」が全都道府県に設置されており、初回相談は無料です。インターネット(inpit.go.jp)から最寄りの窓口を検索できます。
Q. 米国や欧州でも同じ特許を守るにはどうすれば良いですか?
A. 国内特許だけでは外国での権利行使はできません。PCT(特許協力条約)ルートなどを活用して外国出願を行う必要があります。各国の均等論の要件が異なるため、クレームの書き方や補正の仕方を各国の代理人と事前に検討することが重要です。費用の一部は特許庁の「中小企業等外国出願支援事業」で助成される場合がありますので、INPIT窓口または最寄りの経済産業局へお問い合わせください。
出典:国際知財司法シンポジウム2026(JSIP2026)を10月22日・23日に開催——均等論の国際比較を中心に日韓欧米の実務家が議論
