知財活動調査が映す「棚卸し」の好機

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特許庁は令和8年度も「知的財産活動調査」を実施中だ。企業・大学・公的研究機関の知財活動実態を毎年把握するこの調査は、政策立案の基礎データになるだけでなく、回答企業が自社の知財を棚卸しする絶好の機会でもある。特許出願が前年比16.8%増と急増する今、中小企業が調査を通じて「知財の現在地」を確認し、支援策活用へ踏み出すためのポイントを整理する。

「知的財産活動調査」とは何か

特許庁は平成14年度(2002年度)から毎年、「知的財産活動調査」を実施している。対象は国内の法人・個人・大学・公的研究機関等で、特許・実用新案・意匠・商標の出願実績が5件以上の「甲調査」対象者と、いずれも5件未満の「乙調査」対象者に区分されて調査票が送付される。令和3年度(2021年度)からは、それまで別建てで実施されていた「模倣被害実態調査」が統合され、模倣被害の発生状況やその対策状況も同時に把握する、より総合的な調査となっている。

調査結果は業種別・出願件数階級別などに集計・公表され、特許庁が知財政策を企画立案する際の基礎資料として活用される。たとえば、中小企業向けの審査請求料減免制度の設計や、INPITによる知財相談体制の拡充といった施策は、こうした実態調査の蓄積があって初めて根拠を持つ。言い換えれば、今年度の調査に参加する企業が増えることは、次年度以降の支援策の質を高めることに直結する。

急増する出願数が示す「競争環境の変化」

特許庁が2026年7月に公表した「特許行政年次報告書2026年版」によれば、2025年の国内特許出願件数は前年比16.8%増の358,317件に達し、2008年以来初めて年間35万件を超えた。AIを活用した明細書作成の効率化が出願コストを引き下げた結果とも指摘される急増ぶりだ。特許査定率は76.5%、審査請求から権利化までの期間は13.2か月という状況の中、競合他社が着々と特許網を築いている可能性がある。

こうした競争環境の変化は、自社の知財活動を「見える化」していない中小企業にとって、見えないリスクを意味する。自社技術に関連する特許出願が急増している分野では、後から参入障壁を設けられる前に手を打つ必要がある。知的財産活動調査への回答は、まさにこの「見える化」を促すきっかけになりうる。

調査回答が「知財の棚卸し」になる理由

知的財産活動調査の調査票は、特許庁ウェブサイトでサンプル版を事前確認できる。調査項目は、出願件数・登録件数・ライセンス収入・知財訴訟の有無・模倣被害の状況など多岐にわたる。これらの設問に答えようとすると、自社の知財に関するデータを一度まとめて整理しなければならない。その作業そのものが、実は多くの中小企業が後回しにしている「知財の棚卸し」と同義である。

たとえば、「特許出願件数」を記入しようとして初めて、過去5年分の出願リストを引っ張り出す担当者は少なくない。そこで気づくのが、「出願したきり審査請求していない案件」「登録後に維持料を払い続けているが事業化していない特許」「競合が侵害している可能性がある技術」といった、眠ったままになっている知財資産だ。調査票への回答は、こうした課題を浮かび上がらせる構造になっている。

特に中小メーカーに多いのが、技術者が個人の頭の中だけで管理している「ノウハウ型の知財」だ。事業承継や人材流出のリスクを考えれば、特許出願の有無にかかわらず、自社の技術的優位性を文書化しておくことは経営課題でもある。今年度の調査回答を機に、社内の知財リストを一度整理してみることを強く勧めたい。

知財活動調査を起点にした中小企業の知財活用ステップ
1
STEP 1:調査票サンプルを確認
特許庁ウェブサイトから調査票サンプル版(PDF)をダウンロードし、自社が回答できる項目・できない項目を洗い出す。
2
STEP 2:社内の知財資産を棚卸し
出願・登録済み特許・商標のリスト化、未出願のノウハウや技術的優位性の文書化を行う。
3
STEP 3:INPITの無料相談を予約
棚卸し結果を持参してINPIT知財総合支援窓口へ。弁理士が権利化すべき技術の優先順位付けを支援する。
4
STEP 4:減免・補助制度を活用して出願
中小企業向け審査請求料減免(1/2)・外国出願補助金(特許1件最大150万円)を活用し、戦略的に権利化する。

回答後に使いたい公的支援策——3つの入口

知財の棚卸しが済んだら、次のステップは支援策の活用だ。現在、中小企業が利用できる主な入口は以下の3つに整理できる。

第一は「INPIT(工業所有権情報・研修館)の知財相談」だ。INPITは全国に総合支援窓口(知財総合支援窓口)を設置しており、弁理士や知財専門家が無料で相談に応じる。2026年10月には九州本部(INPIT-KYUSHU)も開設され、地域カバレッジがさらに広がった。第二は「特許庁の審査請求料・特許料の減免制度」だ。中小企業は審査請求料と特許料(1〜10年分)が2分の1に軽減され、設立10年未満のスタートアップはさらに3分の1まで減額される。第三は「外国出願補助金」で、特許は1件あたり150万円・補助率1/2、年間上限300万円の補助が受けられる。

いずれの制度も「知財があること」が前提になる。まず自社の知財を棚卸しし、どの技術・ブランドを権利化すべきかを整理することが、支援策活用の出発点だ。知的財産活動調査への回答は、その整理のきっかけとなりうる。

  • INPIT 知財総合支援窓口(無料相談)——全国47都道府県に設置、弁理士等が対応
  • 特許庁 審査請求料・特許料の減免——中小企業は1/2、スタートアップは1/3に軽減
  • 外国出願補助金——特許1件あたり最大150万円・補助率1/2、年間300万円上限

知財担当者が今週できる具体的なアクション

「知的財産活動調査に回答する」という行動は、一見すると受け身に映る。しかし実際には、その準備過程で自社の知財資産が整理され、課題が可視化されるという能動的な価値がある。知財活動を体系的に把握できていない企業ほど、調査票のサンプルを見ることで「何が分かっていないか」が分かる。

また、調査結果は業種別・規模別に集計されて公表されるため、公表後に「同業他社の出願動向や模倣被害の状況」を知る手がかりにもなる。自社データを提供することで、業界全体の知財環境に関するより精度の高い政策立案につながるという意味でも、調査への協力は中小企業にとって中長期的なメリットがある。

まず特許庁の調査票サンプル(PDFでダウンロード可)を確認し、自社でどの項目が回答できるか・できないかを洗い出してみてほしい。回答できない項目があれば、それが自社の知財管理の「穴」だ。その穴を埋めるために、INPITの無料相談を活用するというステップが自然につながる。

よくある質問

Q. 知的財産活動調査は誰でも回答できますか?

A. 特許庁から調査票が送付された企業・法人・個人・大学・公的研究機関等が対象です。調査票が届いていない場合でも、特許庁ウェブサイトでサンプル版を確認し、自社の知財状況を整理する参考資料として活用できます。

Q. 調査に回答すると、自社の情報が外部に漏れますか?

A. 調査結果は業種別・出願件数階級別などに集計・統計化されたうえで公表されます。個別企業の回答内容が特定できる形で公開されることはありません。統計法に基づく守秘義務が適用されます。

Q. 調査票の「特許出願件数」欄に記載する数字が分からない場合はどうすればよいですか?

A. J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で自社名を出願人として検索すると、過去の出願件数を確認できます。自社に知財担当者がいない場合は、INPITの知財総合支援窓口への無料相談も活用してください。

Q. 調査回答と支援策の活用は直接連動していますか?

A. 調査への回答が直接、補助金採択や相談予約につながるわけではありません。ただし、調査票の設問に答える準備過程で自社の知財状況が整理され、その結果としてINPIT相談や減免制度の活用判断がしやすくなるという間接的な効果があります。

出典:令和8年度 知的財産活動調査——特許庁、企業・大学・研究機関の知財実態を今年度も調査中