特許+商標で現場を変えた小さな会社の知財戦略

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2026年4月、経済産業省・特許庁が主催する「知財功労賞」の特許庁長官表彰(知財活用ベンチャー)を、香川県の建設ロボットベンチャー・建ロボテック株式会社が受賞した。受賞の核心は「特許で技術を守り、商標でブランドを固める」という二刀流の知財活用にある。この事例は、予算も知財専任者も限られた中小メーカーにとって、最も参考にしやすいモデルの一つだ。

受賞企業と受賞理由——何が評価されたのか

建ロボテック株式会社(香川県木田郡三木町)は、2013年に建設現場出身の創業者が設立した研究開発特化型のベンチャーだ。職人の高齢化と人手不足が深刻な建設業界において、鉄筋工事の鉄筋結束作業を自動化するロボット「トモロボ」を開発・普及させてきた。

特許庁の発表によれば、同社の受賞理由は主に三つに整理されている。第一に、磁気センサーで鉄筋交点を察知して自動結束するという独自技術を特許権として権利化した点。第二に、その特許権取得によって投資家や顧客からの信頼向上・ビジネスチャンス獲得・交渉時の優位性確保につなげた点。第三に、「トモロボ」「ドマコロ」「働楽(はたらく)」といった商品名称を、現場での意図しない略称を防ぐよう短い音節に工夫し、商標戦略として積極的に推進した点だ。

なお、平成27年以降、香川県内の企業による知財功労賞(経済産業大臣表彰または特許庁長官表彰)の受賞は同社が初めてとなる。知財活用の実績が地方の中小・ベンチャー企業にも広がりつつあることを示す出来事でもある。

なぜ「特許+商標」の二刀流が中小企業に効くのか

中小メーカーがよく陥る落とし穴は、「特許は取ったが使い切れていない」か、逆に「良い技術なのに権利化していない」かのどちらかだ。建ロボテックの事例が示すのは、特許と商標を組み合わせることで、一方だけでは得られない複合的な効果が生まれるという点である。

特許は「技術の独占」を可能にする。競合が同じ仕組みで製品を作ることを法的に阻止し、市場での優位性を一定期間保護する。しかし特許だけでは「誰の技術か」というブランドイメージは固まらない。そこで商標が補完機能を果たす。製品名・サービス名を商標登録しておけば、第三者が同じ名称を使うことを防ぎ、顧客の記憶の中に「あの会社の製品」として定着させることができる。

建ロボテックは「トモロボ」という名称を短い音節に設計し、現場での自然な略称を事前に封じる形で商標を戦略的に出願した。これは名称そのものをブランド資産として設計する発想であり、開発段階から知財を意識した事業設計の好例といえる。

さらに重要なのは「特許権取得が外部からの信頼を生む」という回路だ。特許は第三者機関(特許庁)が技術の新規性・進歩性を審査した上で付与するものであり、いわば公的なお墨付きを意味する。ベンチャーにとっては投資家への説明資料として、中小メーカーにとっては大手との商談の場で「うちにはこの特許がある」と示せるカードになる。

知財功労賞「知財活用ベンチャー」表彰が示す制度的背景

「知財功労賞」は経済産業省・特許庁が毎年「発明の日」(4月18日)に合わせて実施する表彰制度であり、大企業から中小企業・ベンチャー・個人・大学まで幅広く対象としている。令和8年度は、経済産業大臣表彰として個人2名・企業等7者、特許庁長官表彰として個人4名・企業等14者が選定された。

注目すべきは「知財活用ベンチャー」という表彰区分が独立して存在することだ。大企業の知財部門と同じ尺度ではなく、規模の小さな企業が事業成長に知財を活かしているかどうかを評価する視点が制度として組み込まれている。これは特許庁が「スタートアップ・中小企業の知財活用」を政策的に重視している表れでもある。

令和8年度の受賞企業を見渡すと、大企業から知名度の高い上場企業まで名を連ねる中で、建ロボテックのような非上場の地方ベンチャーが同じ舞台で表彰されている。この事実は、知財を使い始めるハードルが企業規模によらず存在するわけではないことを示している。

中小メーカー・知財担当者が今すぐ点検すべきポイント

建ロボテックの事例を参照しながら、自社の知財活用を見直す際には、「守る」「稼ぐ・信頼を得る」「ブランドを固める」の3軸で現状を点検することが出発点になる。

まず「守る」軸では、自社の中核技術が権利化されているかを確認したい。特許出願済みであっても、クレーム(請求項)の書き方が狭すぎると、競合が少し仕様を変えるだけで回避できてしまう。出願済みの特許について、現在の製品や技術に照らして権利範囲が適切かを弁理士に相談してみる価値がある。

次に「稼ぐ・信頼を得る」軸では、取得した特許を「あるだけ」になっていないかを確認する。取引先や金融機関との交渉の場で特許を活用しているか、あるいは自社の開放可能な特許を他社にライセンスする余地がないかを検討してみよう。INPITの「知財総合支援窓口」では、こうした特許の活用方法について無料で相談できる。

「ブランドを固める」軸では、主力製品・サービスの名称が商標登録済みかを確認する。商標を取得しないまま名称を使い続けると、第三者が同じ名称を先に登録してしまうリスクがある。また、製品名の略称・通称まで含めて保護できているかも点検したい。建ロボテックが商品名を「短い音節に工夫」して商標を取得したように、命名段階から権利化を意識した設計が理想だ。

なお、特許出願費用の一部軽減制度(特許料等の減免措置)や、INPITを通じた専門家による知財支援など、中小企業向けの公的サポートも整備されている。これらを活用することで、予算の制約を抑えながら知財戦略を前進させる道が開かれている。ただし、自社の具体的な出願可否の判断や権利範囲の解釈については、必ず弁理士など資格を持つ専門家に相談することを勧める。

  • 自社技術の特許は取得済みか/クレームの範囲は十分か
  • 取得済み特許を商談・資金調達の場で活用しているか
  • 主力製品・サービスの名称は商標登録済みか
  • 製品名の略称・通称まで含めて保護できているか
  • INPITの知財総合支援窓口・特許料等の減免措置を把握しているか
中小企業が今すぐ始める「知財活用3ステップ」
1
STEP 1:棚卸し
自社の技術・製品名・ノウハウを書き出し、特許・商標として保護できるものを洗い出す。INPITの無料相談窓口も活用可。
2
STEP 2:権利化
弁理士と連携し、核心技術を特許出願・製品名を商標登録。「守る」と「ブランドを固める」を同時に進める。中小企業向け減免措置も確認。
3
STEP 3:活用・発信
取得した権利を商談・資金調達・広報の場で積極的に活用。「特許取得済み」の事実が投資家・顧客からの信頼を高め、ビジネスチャンスを広げる。

まとめ——「知財は大企業のもの」という思い込みを手放す

建ロボテックの事例が最も強く示すのは、「知財活用は大企業専用の戦略ではない」という事実だ。地方の中小ベンチャーであっても、自社技術の本質的な価値を特定し、それを特許と商標で戦略的に保護・活用することで、投資家・顧客・取引先からの信頼を獲得し、事業成長につなげることができる。

知財の整備は「コスト」ではなく「経営資源への投資」として捉え直すことが重要だ。自社にどんな技術・ノウハウがあり、そのうち権利化できるものはどれかを棚卸しすることが、最初の一歩になる。特許庁・INPITの相談窓口や、各地の知財総合支援窓口を入口に、まずは気軽に相談してみることを勧めたい。

よくある質問

Q. 知財功労賞「知財活用ベンチャー」は、どのような企業が対象ですか?

A. 経済産業省・特許庁が毎年実施する表彰制度の中の一区分で、特許や商標などの知的財産権制度を有効に活用し、事業成長や社会課題解決に貢献したベンチャー・スタートアップ企業が対象です。規模の大小に関わらず応募・候補となりうる制度です。

Q. 特許と商標は、どちらを先に取るべきですか?

A. 原則として、どちらも「早期出願・登録」が基本です。特許は公開前・販売前の出願が鉄則で、商標は製品名が決まった段階で出願を検討しましょう。具体的な優先順位は自社の事業フェーズや予算によって異なるため、弁理士への相談が確実です。

Q. 中小企業が特許出願する場合、費用負担を軽減する方法はありますか?

A. 特許庁では、中小企業・スタートアップ向けに出願料・審査請求料・特許料などの減免措置を設けています。また、INPITの知財総合支援窓口では弁理士による無料の専門相談が受けられます。詳細は特許庁公式サイト(https://www.jpo.go.jp)でご確認ください。

Q. 製品名を商標登録していないと、どんなリスクがありますか?

A. 第三者が同一または類似の名称を先に商標登録してしまうと、自社がその名称を使い続けることが困難になる場合があります。また、顧客の間で定着した名称を保護できないため、ブランド価値の流出につながる可能性もあります。

出典:令和8年度「知財功労賞」特許庁長官表彰(知財活用ベンチャー)——建ロボテック株式会社が受賞