特許庁が公表した最新統計によれば、2025年の国内特許出願件数は前年比16.8%増の358,317件に達し、2008年以来初めて年間35万件を超えた。AI活用の加速が一因とも指摘されるこの「出願ラッシュ」は、中小メーカーや企業の知財担当者にとってどんな意味を持つのか。審査現場で起きていることと、いま取るべき具体的行動を整理する。
何が起きたのか——2025年の出願急増を読む
特許庁が2026年7月27日に公表した「特許行政年次報告書2026年版」、および同年に公表された「特許庁ステータスレポート2026」によれば、2025年の特許出願件数は358,317件を記録した。2024年の306,855件から約5万1千件の増加であり、伸び率は16.8%に達する。年間35万件を超えたのは2008年以来のことだ。
増加の背景として注目されているのが、2025年12月単月の急増だ。2025年12月の出願件数は82,188件に上り、前年同月比で約168.9%増(約2.7倍)を記録した。業界関係者の間では、企業によるAI(人工知能)を活用した発明創出の加速が一因として取り沙汰されている。特許庁は出願人の詳細については明らかにしていないが、AIが実務現場に入り込み、発明の量産スピードが上がっているとすれば、それは競争環境の質的変化を意味する。
一方、PCT国際出願(特許協力条約に基づく国際出願)は2025年に46,305件となり、2019年の過去最高(51,652件)からは漸減傾向が続く。国内出願の急増と国際出願の横ばい・漸減は、企業の知財戦略の「内向き化」と読むこともできるが、単なる数の増加で実態が変わるわけではない。量より質への転換が問われる局面でもある。
審査現場の今——査定率76.5%・審査期間13.2か月の意味
出願件数が急増する中、特許庁の審査現場はどう対応しているのか。年次報告書2026年版によれば、2025年の特許査定率は76.5%であった。また、審査請求から一次審査通知までの期間(FA期間)は平均9.4か月、審査請求から権利化(特許登録)までの期間は平均13.2か月だった。特許庁は2033年度においても権利化までの期間を平均14か月以内に維持するという目標を掲げており、現時点はその目標内に収まっている。
意匠・商標についても短縮傾向が続いている。意匠審査の一次審査通知までの期間は5.9か月、権利化までは6.6か月。商標審査の一次審査通知までの期間は6.6か月、権利化までは7.5か月で、いずれも2024年度より短縮した。
こうしたデータが示すのは、「審査スピードは今のところ高水準を維持している」という事実だ。しかし、出願件数が急増し続ければ将来的な審査遅延リスクがないとは言い切れない。「早めに出願し、早めに権利化する」という基本動作の重要性が改めて高まっている。
中小企業・知財担当者にとって何を意味するか
大企業がAI活用により発明の量産スピードを上げているとすれば、中小企業の知財環境は静かに厳しさを増しつつある。競合他社や大手が先行出願した特許が積み上がれば、自社技術の権利化可能性が狭まり、新製品の参入障壁が高まるからだ。「うちは中小だから特許は大企業の話」という認識は、今こそ改めるべき時期に来ている。
もう一つ見落とせないのが、特許登録率(特許査定率)が76.5%という高水準を維持している点だ。出願の「厳選化」が進む中でこの数字は、きちんと設計された出願はかなりの確率で権利になる、という実態を示している。逆に言えば、せっかく時間とコストをかけて出願したにもかかわらず、権利範囲が極端に狭かったり、すぐ無効にされるような特許を積み上げても意味はない。出願前の「先行技術調査」と「クレーム設計」への投資が、より重要になっている。
2026年4月以降、特許庁からのオンライン発送(拒絶理由通知・査定・登録証等)は、インターネット出願ソフトで受取可能となった日の翌日から10日経過した時点で「到達」とみなされる制度に変わっている。開封していなくても応答期限が進行するため、特許庁は10開庁日に1回以上(可能であれば週1回程度)の確認を推奨している。出願件数が増えてきた今、自社のポートフォリオ管理と期限管理の体制を見直すタイミングでもある。
いま中小企業が取れる具体的アクション
出願急増の波に乗るためには、まず「自社の技術の棚卸し」が出発点になる。自社が持つ未出願の技術・ノウハウを可視化し、競合の出願動向をJ-PlatPatで定期チェックする習慣をつけるだけで、知財リスクの早期発見と機会の発掘につながる。J-PlatPatは無料で使えるうえ、近年は検索機能も強化されている。
出願コストの不安がある場合は、INPITの知財総合支援窓口を活用してほしい。弁理士や知財専門家への相談を無料で受け付けており、出願費用についても中小企業向けの減免制度が設けられている。特許庁が公表している「特許料等の減免措置一覧表」を確認すれば、自社が対象になるかどうかを事前に把握できる。
また、権利化を急ぐ場合は「早期審査制度」の活用も検討に値する。通常の審査より早く審査結果が得られる仕組みで、事業化が具体的に進んでいる発明などが対象となる。要件や手続きは特許庁の解説ページで確認できる。自社の事業スケジュールに合わせた権利化タイミングを設計することが、知財を「経営の武器」にする第一歩だ。
- J-PlatPatで競合の出願動向を定期チェックする(無料)
- INPIT知財総合支援窓口で弁理士に無料相談する
- 中小企業向け特許料等減免制度を確認・活用する
- 早期審査制度を使い、事業スケジュールに合わせた権利化を狙う
- オンライン発送の「10日到達みなし」に対応した期限管理体制を整備する
出典
・特許庁ステータスレポート2026(経済産業省・特許庁)https://www.jpo.go.jp/resources/report/statusreport/2026/matome.html
・特許行政年次報告書2026年版(経済産業省・特許庁、2026年7月27日公表)https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2026/index.html
・特許行政年次報告書2026年版 第1章グラフで見る国内外の動向(PDF)https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2026/document/index/0100.pdf
・特許料等の減免措置一覧表(特許庁)https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2026/index.html
・知的財産制度改正の解説(特許庁)https://zelojapan.com/lawsquare/65010(参考:2026年制度変更まとめ)
よくある質問
Q. なぜ2025年の特許出願件数はこれほど増えたのですか?
A. 特許庁は出願人の詳細を公表していませんが、業界では企業によるAI活用を使った発明創出の加速が背景の一つとして指摘されています。特に2025年12月の単月出願件数が前年同月比約2.7倍に急増しており、年間全体の数字を大きく押し上げました。
Q. 出願件数が増えると審査が遅くなりますか?
A. 現時点(2025年度実績)では、特許の権利化までの期間は平均13.2か月と特許庁の目標(14か月以内)を維持しています。ただし、出願件数が増加し続ければ将来的な遅延リスクはゼロではありません。早めの出願・早めの審査請求が引き続き有効な対策です。
Q. 中小企業が特許を出願する際に使える費用支援はありますか?
A. 特許庁は中小企業向けに審査請求料・特許料の減免制度を設けています。また、INPITの知財総合支援窓口では弁理士への無料相談が可能です。特許庁ウェブサイトで「特許料等の減免措置一覧表」を確認し、自社が対象になるか事前にチェックすることをお勧めします。
Q. 2026年4月から変わった「オンライン発送の10日到達みなし」とは何ですか?
A. 2026年4月以降、特許庁がオンラインで発送した拒絶理由通知・査定・登録証等は、インターネット出願ソフトで受取可能となった日の翌日から10日が経過した時点で「到達」とみなされます。実際に開封していなくても応答期限が進行するため、特許庁は週1回程度の確認を推奨しています。
出典:特許庁ステータスレポート2026をとりまとめました——2025年特許出願件数が前年比16.8%増の358,317件、2008年以来の年間35万件超
