商標区分が変わる——ニース分類13-2027版改正の実務影響

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特許庁は2026年9月、商品・サービスの国際分類(ニース分類)を第13-2027版に対応させるための商標法施行規則改正案と、類似商品・役務審査基準の改訂案を公表し、パブリックコメントの募集を開始した。一見地味な「区分の整理」だが、既存商標の権利範囲が意図せず狭まるリスクを内包しており、中小企業の知財担当者には早急な棚卸しが求められる。

今回の改正の背景——ニース分類とは何か

商標登録出願では、保護を求める商品・サービスを「区分」に従って指定することが法律上求められる(商標法第6条第2項)。この区分の国際的な基準を定めているのが「ニース協定」であり、同協定に基づく国際分類(ニース分類)は世界知的所有権機関(WIPO)で定期的に改訂される。

日本では、ニース分類が改訂されるたびに商標法施行規則の別表(具体的な商品・役務の例示リスト)が改正され、審査実務に反映されてきた。直近では2026年1月1日に第13-2026版が施行されたばかりだが、WIPOが2026年春に開催した専門家委員会での決定を受け、今度は第13-2027版への対応改正案が特許庁から示された。

改正案の内容は、①国際分類の改訂に伴う別表記載の見直し、②商品・役務の表示の明確化の2本柱とされている。毎年改訂が繰り返される制度ではあるが、今回は「表示の明確化」が加わっている点が実務上のポイントとなる。

「区分が変わる」——中小企業の商標に何が起きるか

「自社商品をカバーする商標は10年前にきちんと登録してある」——そう安心している中小企業の経営者や知財担当者に、今回の改正は重要な問いを投げかけている。区分の改訂によって、旧分類では一つの区分に収まっていた商品が複数区分に分かれたり、逆に統合されたりすることがある。その結果、既存商標の指定商品・役務の表示が新基準と整合しなくなり、権利範囲が事実上狭まるリスクが生じうる。

たとえばスマートグラスやウェアラブルデバイスのように、新技術製品の区分の扱いは改訂ごとに変化しやすい。旧区分で出願・登録した商標が、新区分のもとでは保護の空白を生むケースは珍しくない。大企業であれば弁理士事務所が定期的に棚卸しを行うが、中小企業では「登録したら終わり」になりがちで、こうした変化を見落とすリスクが高い。

もう一つ見落としがちな点が「類似商品・役務審査基準」の改訂だ。同基準は商標の類否判断の拠り所であり、競合他社の商標と自社商標が「類似」とみなされるかどうかに直接影響する。審査基準が変われば、これまで問題なかった他社商標との関係性が変わりうるし、逆に自社の権利の守備範囲が変化する場合もある。

パブコメ期間中に何ができるか——実務担当者の動き方

今回、特許庁はパブリックコメントを通じて広く意見を募集している。「中小企業が国の制度改正にコメントするなど現実的でない」と感じる方もいるかもしれないが、業界団体や弁理士会を通じて現場の実態を届けることは制度改善につながる。自社だけでは難しい場合も、業界団体や顧問弁理士を通じてパブコメに参加する経路がある。

より即効性のある実務対応としては、「現在保有する商標の指定商品・役務リストの棚卸し」が最優先だ。改正案として提示された別表の変更点を自社の登録商標と照らし合わせ、カバー漏れが生じないかを確認する。特に、新製品・新サービスを展開している企業では、最新の事業内容が現在の登録商標の指定範囲に含まれているかを点検したい。

なお、施行前に出願した商標に係る商品・役務の区分については、従前の規定が引き続き適用される経過措置が設けられる見通しだ(過去の改正でも同様の経過措置が置かれている)。しかし「既存登録の更新時」や「新たな指定商品を追加する場面」では新基準が適用されるため、更新期を迎える商標がある企業は特に注意が必要となる。

ニース分類改訂への対応フロー(中小企業・知財担当者向け)
1
Step 1:改正案を入手する
特許庁のパブコメページから「商標法施行規則の一部を改正する省令案」および「改正項目一覧(別紙PDF)」をダウンロードする
2
Step 2:自社商標を洗い出す
J-PlatPatで自社(および自社関連)の登録商標を検索し、指定商品・役務の一覧を作成する
3
Step 3:改正項目と照合する
改正項目一覧と自社商標の指定内容を突き合わせ、変更・削除・統合の対象となっている商品・役務がないかを確認する
4
Step 4:新事業カバーを確認する
直近で開始した新製品・新サービスが、現行の指定商品・役務の範囲に含まれているかを改めて点検する
5
Step 5:弁理士・INPITに相談する
カバー漏れや権利範囲の疑問点が出た場合は、弁理士またはINPIT知財総合支援窓口(初回相談無料)へ相談し、追加出願の要否を判断する

商標を「資産」として守るために——今すぐできる5つのチェック

以下は、今回の改正を踏まえて知財担当者・経営者が自社でできる具体的な確認事項をまとめたものだ。弁理士への相談を前提としつつ、社内での事前整理として活用してほしい。なお、本記事は法的助言を提供するものではなく、参考情報として提供するものである。

改正案の全文は特許庁のパブリックコメントページ(意見提出手続一覧)から参照可能だ。改正項目一覧(別紙PDF)には変更対象となる商品・役務が具体的に列挙されており、自社事業と照らし合わせるための第一歩として使える。J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で自社商標の指定商品・役務を検索すれば、現在の登録内容を無料で確認できる。

  • 【自社商標の棚卸し】J-PlatPatで登録商標の指定商品・役務を検索し、一覧化する
  • 【改正案との照合】特許庁公表の改正項目一覧(別紙PDF)と自社商標の指定区分を照らし合わせ、変更対象が含まれていないかを確認する
  • 【新事業・新製品のカバー確認】直近2〜3年で始めた新サービス・新製品が既存商標の指定範囲に収まっているかを検討する
  • 【更新期の把握】向こう3年以内に更新期を迎える商標を洗い出し、更新タイミングに合わせて指定商品・役務の見直しを検討する
  • 【弁理士への相談】上記確認でカバー漏れや区分変更の疑いが浮かんだ場合は、追加出願の要否を弁理士に相談する(INPIT知財総合支援窓口でも初期相談は無料)

「毎年改訂」の制度だからこそ、定期点検の仕組みを作る

ニース分類は毎年改訂される国際分類であり、日本の商標法施行規則もそれに連動して年1回程度の改正が繰り返されている。つまり今回の対応が終わっても、来年また同様の確認が必要になる。こうした「毎年発生するイベント」こそ、その都度慌てるのではなく、社内に定期点検の仕組みを組み込む好機だ。

具体的には、各年末から年明けの施行期に合わせて「商標棚卸し月間」を設定し、知財担当者が主要商標と改正内容を照合するルーティンを作ることが有効だ。年次でPDCAを回すことで、登録商標が事業の実態から乖離していく「権利の形骸化」を防ぐことができる。

商標は、一度取ったら終わりではなく、事業の成長・変化とともに育てていくべき資産だ。今回の改正をきっかけに、自社の商標ポートフォリオ全体を見直す機会としてほしい。

出典

・特許庁「意見提出手続(パブリック・コメント手続)」一覧:https://www.jpo.go.jp/news/public/iken/index.html
・特許庁「商標法施行規則の一部を改正する省令(令和7年12月12日 経済産業省令第79号)」:https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/syoreikaisei/shohyo/shohyo_20251212.html
・特許庁「商品及び役務の区分解説〔国際分類第13-2026版対応〕」:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/bunrui/kubun_kaisetsu_13-2026.html
・特許庁「類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2026版対応〕」:https://www.jpo.go.jp/e/system/laws/rule/guideline/trademark/ruiji-kijun/document/ruiji_kijun13-2026/all.pdf

よくある質問

Q. 今回の改正で、既に登録済みの商標の権利が無効になることはありますか?

A. 施行規則の改正は、既存の登録商標そのものを無効にするものではありません。ただし、指定商品・役務の表示が新基準と整合しない場合、権利の解釈・行使の場面でカバー範囲が実質的に限定されるリスクがあります。詳細は弁理士にご相談ください。

Q. 今回の改正案に意見を出す必要はありますか?中小企業でも参加できますか?

A. パブリックコメントは企業規模に関係なく誰でも提出できます。自社が影響を受ける区分変更がある場合、業界団体や弁理士会と連携して意見を提出することが制度改善につながります。参加方法はe-Gov(電子政府の総合窓口)または特許庁ホームページから確認できます。

Q. ニース分類の改訂は今後も毎年続くのでしょうか?

A. ニース分類はWIPOの専門家委員会が毎年開催され、定期的に改訂されます。日本の商標法施行規則もこれに連動して年1回程度の改正が行われるため、継続的な確認が必要です。毎年の定期点検を社内の仕組みとして組み込むことを推奨します。

Q. 費用をかけずに自社商標の現状を確認する方法はありますか?

A. 特許庁が提供する無料の検索システム「J-PlatPat」で、自社商標の登録内容(指定商品・役務を含む)を確認できます。また、INPIT(工業所有権情報・研修館)の知財総合支援窓口では、弁理士等の専門家への初回相談が無料で受けられます。

出典:「商標法施行規則の一部を改正する省令案」および「類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2027版対応〕(案)」に対する意見募集について(特許庁、2026年9月公表)