2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震を受け、特許庁は同年8月7日、特定非常災害特別措置法に基づく手続期間の延長措置を公表した。国内手続の期限を最長2027年1月27日まで延長できるほか、EPO・USPTO等の海外知財庁も個別に救済措置を設けている。被災地の企業だけでなく、被災地に代理人や連絡窓口を置く企業も対象となりうる。
何が起きたのか——令和8年熊本地震と知財庁の対応
2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1(最大震度7)の大規模地震が発生した。熊本県宇城市・氷川町で震度7が記録され、熊本県内の10市10町1村に災害救助法が適用された。
特許庁は地震発生後すみやかに対応に動き、2026年8月7日付で「特定非常災害特別措置法第3条第3項に基づく令和8年熊本地震により影響を受けた手続期間の延長について」を公表した。今回の措置は、今般の地震によって被害を受け、所定の期間内に特許庁に対する手続を行うことができなかった出願人または代理人等が対象となる。延長後の期日は政令(令和8年政令第二百六十号)で定められ、2027年1月27日とされている。
特許庁のトップページにも「令和8年(2026年)熊本地震により影響を受けた方へ」という重要なお知らせが掲示され、現在も情報が随時更新されている。手続種別ごとの詳細は特許庁の専用ページで確認できる。
対象となる手続と申出の仕組み
今回の延長措置が適用されるのは、特許・実用新案・意匠・商標のいずれかに関わる国内手続のうち、特許庁が別途示す手続一覧に掲載されているものだ。申出は上申書を提出することで行い、特許庁から措置が受けられるかどうかの通知が届く。なお、書類を作成できる状況にない場合は、まず電話等での相談も受け付けている。
国際条約(PLT・STLT)の締約国との関係では、条約の規定に基づいた救済措置も受けられる。特許出願または特許に関する手続期間が満了してしまった場合、出願人は当該手続期間の延長または処理の継続を求めることができる。ただし、審判などの再審手続や当事者間の手続については救済措置の適用が除外されている場合がある点に注意が必要だ。
事前に申出を行いたい場合は、特許庁が公表している「別紙2 上申書の作成例」を参考に書類を準備するとよい。措置を受けるか否かの判断は特許庁側が行い、申出者に通知される。
- 特許・実用新案・意匠・商標のいずれかに関わる国内手続(手続一覧に掲載のもの)
- 優先権の主張期間が満了してしまったケース(相当な注意を払ったことの証明が必要な場合あり)
- 海外知財庁への手続(EPO・USPTO・ラオス・スイス・オーストラリアなど各国が個別に救済措置を公表)
- 申出方法:所定の上申書を提出→特許庁から通知(書類作成困難な場合は電話相談も可)
被災地外の企業も「対象」になりうる——見落とされがちなポイント
今回の措置を「自社は熊本に拠点がないから関係ない」と考えるのは早計だ。実務上、注意が必要なケースがいくつかある。
第一に、委任している弁理士事務所や特許事務所が熊本県内に所在している場合、代理人が被災して連絡が途絶え、期限対応ができなくなるリスクがある。今回の措置は「出願人又は代理人等」が対象とされているため、代理人側の被災でも申出を検討できる余地がある。
第二に、サプライチェーン上の取引先や関連会社が被災地に集中している中小メーカーの場合、手続を担うキーパーソンが被災して対応不能になるケースも想定される。
第三に、海外出願の優先権期間が地震前後にかかっていたケースでは、国内手続だけでなく、EPOやUSPTOといった外国知財庁での救済措置も並行して確認する必要がある。欧州特許庁(EPO)は2026年8月6日、EPC規則134(5)条に基づく救済措置を案内している。
知財担当者は、自社だけでなく代理人・関連会社の状況を確認し、期限切れリスクがないかを今すぐ棚卸しすることが求められる。
中小メーカー・知財担当者が今すぐ取れる行動
災害時の知財手続リスクは、平時からの備えが差を生む。今回の対応をきっかけに、以下の実務アクションを点検してほしい。
まず「手続期限の棚卸し」を行う。直近6か月以内に到来する拒絶理由通知への応答期限・審査請求期限・更新料納付期限などをリストアップし、地震の影響を受けていないかを確認する。次に「代理人の安否確認」を行う。担当弁理士や特許事務所が被災地域に所在する場合は、早急に状況確認の連絡を入れること。
申出に際しては、特許庁が公表している上申書の作成例を使うのが最も確実だ。書類の作成が困難な場合も、特許庁への電話相談を先行させることで、記録を残しながら手続を進められる。
中長期的な視点では、「BCP(事業継続計画)に知財手続を組み込む」ことを強くすすめる。大規模災害が発生するたびに同様の措置が講じられてきたが、期限切れを起こしてから救済を求めるのと、事前に手続期限を把握・管理しているのとでは、企業の対応コストが大きく異なる。知財管理ツールや弁理士との定期確認フローを整備し、期限情報を常にアクセス可能な状態に保つことが、被災リスクへの最大の備えとなる。
なお、今回の措置については法的判断を要する部分も多く、個別ケースへの適用可否については必ず特許庁または専門家(弁理士・弁護士)に相談されたい。当記事はあくまで情報提供を目的としており、法的助言を行うものではない。
- 【今週中】直近6か月以内の手続期限をリストアップし、被災影響の有無を確認する
- 【今週中】担当弁理士・特許事務所が被災地域に所在する場合、安否・対応状況を確認する
- 【随時】特許庁の専用ページ(jpo.go.jp/news/koho/saigai/)で最新の救済措置情報を確認する
- 【今後】知財手続期限をBCPに組み込み、管理ツールや定期確認フローを整備する
よくある質問
Q. 被災地域(熊本県)に拠点がない企業でも、延長措置の対象になりますか?
A. 今回の措置の対象は「令和8年熊本地震によって被害を受け、所定の期間内に特許庁への手続を行うことができなかった出願人または代理人等」とされています。委任している弁理士事務所が被災地に所在していて連絡が途絶えた場合など、直接の拠点がなくても対象となりうるケースがあります。個別の適用可否については特許庁または専門家(弁理士・弁護士)へご相談ください。
Q. 延長後の期日(2027年1月27日)はすべての手続に共通ですか?
A. 政令(令和8年政令第二百六十号)により定められた延長期日は2027年1月27日です。ただし、手続の種類や個別の状況によって取り扱いが異なる場合があります。また、審判などの再審手続や当事者間の手続については救済措置の適用が除外されている場合があるとされています。詳細は特許庁の専用ページまたは専門家へご確認ください。
Q. 海外(EPOやUSPTO)への手続も同じ措置が受けられますか?
A. 国内の特許庁措置とは別に、EPO・USPTO・ラオス・スイス・オーストラリアなどの海外知財庁が独自に救済措置を公表しています。各庁への申請手続や対象期間は庁ごとに異なります。特許庁の「令和8年(2026年)熊本地震の発生に伴う各国・地域の知財庁の救済措置等について」ページで各国情報がまとめられているので、あわせて確認してください。
Q. 書類を作成できる状況ではない場合、どうすればよいですか?
A. 特許庁は「書類を作成できる状況にないなどの場合は、まずはお電話等でご相談ください」と案内しています。被災直後などで書類作成が困難であっても、電話相談から始めることで手続の記録を残しながら対応を進められます。特許庁代表番号(03-3581-1101)に問い合わせるか、知財総合支援窓口(INPIT)を活用することも選択肢の一つです。
出典:特定非常災害特別措置法第3条第3項に基づく令和8年熊本地震により影響を受けた手続期間の延長について(経済産業省・特許庁、2026年8月7日)
