「AIが生んだデザイン」は守れるか——意匠制度が岐路に

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2026年10月20日、特許庁の産業構造審議会知的財産分科会・第23回意匠制度小委員会が開催された。議題は「仮想空間におけるデザインに関する意匠制度の在り方」と「生成AI技術の発達を踏まえた意匠制度上の適切な対応」の2本。自社製品のUIや3Dモデルを守りたい中小メーカーにとって、見逃せない制度改革の動きが本格化している。

何が審議されたのか——小委員会の2大テーマ

令和8年10月20日(火)、特許庁庁舎16階の特別会議室とオンライン会議室を併用して第23回意匠制度小委員会が開催された。配布資料として「意匠制度に関する検討課題について」(PDF)が提示され、主に次の2点が議論された。

第一のテーマは「仮想空間におけるデザインに関する意匠制度の在り方」だ。メタバースやXR(拡張現実・仮想現実)上に表示される仮想的な物品のデザイン、デジタル空間内の建築物・インテリア、さらにゲーム内アイテムなど、従来の意匠制度が想定していなかった「物理的な実体を持たないデザイン」をどう保護するかが焦点となっている。

第二のテーマは「生成AI技術の発達を踏まえた意匠制度上の適切な対応」だ。生成AIがデザインを自動生成する場面が急増するなかで、①AIが生成したデザインに意匠権は成立するか、②AIを使ったデザイン創作における創作者(出願人)の要件をどう解釈するか、③大量生成されたデザインが先行意匠の検索を困難にする問題、といった課題が俎上に載っている。

これら2つのテーマは独立しているようで、実は根を共有している。「デザインを誰が・どこで・どのように創るか」という行為の前提が根本から変わりつつあることへの、制度的な対応という点で一体的に議論されている。

なぜ今、意匠制度が変わろうとしているのか

日本の意匠法は2019〜2020年の改正によって大きく拡張され、内装意匠の保護や画像意匠の対象範囲が広がった。しかしその改正から数年で、デジタル技術の進展速度は制度の想定をさらに超えてきた。

仮想空間については、改正後の意匠法でも「物品または建築物または内装に記録・表示されている」ことが要件とされており、純粋にデジタル空間のみに存在するデザイン(バーチャル物品)は保護の対象外になるケースが生じる。メタバース市場が拡大するなか、こうしたグレーゾーンを放置すれば、デザイン投資を回収できないリスクが企業に生まれる。

生成AI については、意匠の成立に「創作」が必要であり、現行制度では自然人(人間)による創作性が前提とされている。AIが自律的にアウトプットしたデザインに意匠権が成立するか否かは、現行法では明確な答えがなく、企業の権利戦略に大きな不確実性を生んでいる。また、生成AIの普及で先行意匠の検索母体が爆発的に拡大することで、審査の質・スピードにも影響が出ることが懸念されている。

こうした背景から、特許庁は意匠制度小委員会を通じて論点の整理を進めており、今回の第23回会合はその中心的な審議の場となっている。

中小メーカー・知財担当者への影響——3つの論点

この審議が今後の制度改正に結びついた場合、中小メーカーや知財担当者には少なくとも3つの観点から影響が生じる可能性がある。ただし、現時点はあくまで審議・検討段階であり、制度改正の時期や内容は確定していない点に注意が必要だ。

  • 【論点① バーチャルデザインの保護範囲】 自社製品のアプリUI・ゲームアイテム・メタバース空間での展示ブースなど、物理的実体のないデザインが意匠権の対象に明確に含まれるかどうかが変わりうる。現状、こうしたデザインは著作権での保護に頼らざるをえないケースがあるが、意匠権のほうが権利の主張・侵害の立証が容易な場面も多い。
  • 【論点② 生成AIを使ったデザイン開発の権利化】 自社デザイナーが生成AIをツールとして使い、最終的なデザインを選択・調整した場合、その意匠権の帰属や創作性の評価がどうなるかが重要になる。今後の審査基準の変更次第で、出願戦略を見直す必要が生じる可能性がある。
  • 【論点③ 自社デザインの無断模倣リスクへの対応】 生成AIを使えば、ライバル企業が既存のデザインを「参考に」して大量の類似デザインを生成することが容易になる。意匠制度が侵害抑止に十分に機能するかどうかは、中小メーカーの模倣品対策にも直結する。
中小メーカー向け:デジタルデザイン保護の4ステップ
1
STEP 1 資産の棚卸し
アプリUI・3Dビジュアル・バーチャル展示など「物理的実体のないデザイン」を洗い出し、現行制度で権利化できるものと未対応のものに仕分けする
2
STEP 2 現行制度での早期出願
2020年意匠法改正で保護対象となった画像意匠(GUI・コンテンツ画像)は今すぐ出願可能。制度改正の結論を待たず、取れる権利は先に取る
3
STEP 3 AIプロセスの記録
生成AIを使ったデザイン開発では、人間がどの段階でどう判断・修正したかをログ・プロンプト・議事録として保存。将来の権利化・侵害対応時の証拠になる
4
STEP 4 審議動向のウォッチ
特許庁ウェブ上に意匠制度小委員会の議事資料が公開される。次回会合の資料を確認し、パブリックコメント機会には積極的に意見を提出する

今、知財担当者が取れる具体的な行動

制度はまだ審議中だが、「改正が確定してから動く」では遅い場合がある。以下のステップを参考に、今から準備を始めることを勧めたい。

  • 【STEP 1 自社の「デジタルデザイン資産」を棚卸しする】 アプリのUI、製品の3Dビジュアル、バーチャル展示のデザインなど、これまで権利化を後回しにしていたデザインを洗い出す。現行制度で意匠登録できるものとできないものに仕分けするだけでも、リスクの全体像が見えてくる。
  • 【STEP 2 現行の「画像意匠」出願を積極的に検討する】 2020年の改正意匠法施行後、コンテンツ画像・GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の画像意匠は既に保護対象とされている。仮想空間の議論の結論を待たずに、現行制度で権利化できる部分は早めに出願しておく価値がある。
  • 【STEP 3 生成AIを使ったデザイン開発のプロセスを記録する】 どの段階で人間がどのような判断・選択・修正を加えたかを記録しておくことが、将来の権利化や侵害対応時の証明に役立つ。ツールのログ、プロンプトの履歴、選択の理由などをプロジェクト記録として残す習慣をつけたい。
  • 【STEP 4 審議の動向を継続的にウォッチする】 特許庁の産業構造審議会知的財産分科会の議事次第・資料はウェブ上で公開されている。次回以降の意匠制度小委員会の資料を確認し、業界団体や弁理士会からのパブリックコメント機会があれば積極的に参加することも検討したい。

「審議中だから関係ない」は危険——先手を打つ理由

制度改正は、一般に「審議→答申→法改正(国会)→施行」という流れを経る。意匠法改正が施行されてから出願準備を始めても、競合他社がすでに先行出願していれば、権利を取れない可能性がある。意匠の世界は「先願主義」——早く出願した者が権利を得る原則だからだ。

さらに、仮想空間・生成AIというテーマは、制度改正がなくても今すぐ自社のデザイン資産に影響している。競合が生成AIで類似デザインを量産した場合の対応策、自社がAIを活用して開発したデザインの権利帰属の整理、こうした問題はすでに現実のリスクとして存在している。

「制度が変わったら対応する」ではなく、「制度が変わる前に、現行制度で取れる権利は取っておく」「制度変更に備えて社内のプロセスを整える」という先手の発想こそが、知財を経営力に転換する第一歩となる。

意匠制度小委員会の審議は今後も続く見通しだ。パテントリリースでは引き続き、議事資料の公開とあわせて最新の動きをお伝えしていく。

よくある質問

Q. 生成AIで作ったデザインは今すぐ意匠登録できますか?

A. 現行制度では「創作者は自然人(人間)」という前提があります。人間がAIをツールとして使い、選択・修正・判断を行ったデザインは出願可能とされますが、AIが完全に自律的に生成したデザインの扱いは現時点でグレーゾーンです。出願を検討する際は、人間の創作関与のプロセスを記録したうえで弁理士に相談することをお勧めします。本記事は法的助言を提供するものではありません。

Q. メタバース上の自社ブースや仮想製品のデザインは今の意匠制度で守れますか?

A. 2020年の改正意匠法により、内装意匠・画像意匠の保護は拡充されましたが、物理的実体を持たない仮想空間のみのデザインについては保護対象かどうかが明確でないケースがあります。現在、特許庁の意匠制度小委員会で検討中です。現行制度での出願可否は個別の案件によって異なるため、弁理士に個別に確認することをお勧めします。

Q. 意匠制度小委員会の資料はどこで見られますか?

A. 特許庁ウェブサイト(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/)にて、各回の議事次第・配布資料が公開されています。第23回(令和8年10月20日)の資料も同ページから参照できます。

Q. 制度改正の時期はいつ頃になりますか?

A. 現在は産業構造審議会の小委員会で論点整理を行っている段階です。一般的に、審議→答申→法改正(国会審議)→施行という流れを経るため、改正の内容・時期は現時点で未定です。特許庁の動向を継続的にウォッチすることをお勧めします。

出典:産業構造審議会知的財産分科会 第23回意匠制度小委員会——仮想空間のデザイン保護・生成AI対応を審議(令和8年10月20日開催)