特許侵害に対する法的措置

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特許侵害に対する法的措置:裁判事例を紹介

特許侵害は、企業や個人が特許権を違法に使用した場合に発生します。これに対して特許権者は、法的措置を講じることで権利を守ることができます。本章では、特許侵害への対応方法、裁判事例、そして成功するための要素について詳しく解説します。

1.特許侵害とは

特許侵害とは、特許権者の許可を得ずに特許技術を製造、販売、輸出入、または使用する行為を指します。この侵害には以下の2種類があります:

  1. 直接侵害: 特許製品そのものやプロセスを違法に使用する行為。
  2. 間接侵害: 特許技術を利用する製品やサービスを提供する行為。

具体例として、以下が挙げられます:

  • Apple vs. Samsung: AppleはSamsungがiPhoneのスワイプ機能やデザイン特許を無断で使用したとして訴訟を提起しました。この事例は直接侵害に該当し、Appleが10億ドル以上の賠償金を勝ち取った代表的なケースです。
  • Moderna vs. Pfizer/BioNTech: Modernaは、PfizerおよびBioNTechがCOVID-19ワクチン開発において自社のmRNA技術特許を侵害したと主張しました。この事例は、特許技術の不正利用が新たな医療分野で問題となることを示しています。
  • 日産自動車 vs. 本田技研工業: 日本国内での事例として、日産は本田が自社のハイブリッド車関連技術の特許を侵害しているとして訴訟を提起。結果として本田はライセンス料の支払いと技術の使用制限を課されました。
  • ソニー vs. 任天堂: ソニーが任天堂のゲームコントローラー技術を特許侵害として訴訟した事例。裁判では任天堂側が勝訴し、特許の適用範囲に関する議論が重要となりました。

侵害が発覚した場合、特許権者は損害賠償請求や差止請求を行う権利を持っています。

 

2.特許侵害に対する法的措置

特許侵害に対して特許権者が講じることのできる法的措置は以下の通りです:

2.1. 差止請求

特許権者は、侵害行為の停止を求める差止請求を裁判所に提出できます。これにより、侵害者が特許技術を使用することを禁止する命令が発行されます。

2.2. 損害賠償請求

侵害行為による経済的損失を補填するために、侵害者に損害賠償を求めることができます。賠償額は、以下の要素で算定されます

  1. 特許技術を利用して得られた利益: 侵害者が特許技術を使用して得た収益を基準に算定。
  2. 特許権者が受けた損害: 特許権者が失った売上や市場シェアを計算。
  3. ライセンス料に基づく推定額: 特許技術を合法的に使用する場合に支払われるべきライセンス料を基に賠償額を推定。

具体例:

  • Apple vs. Qualcomm: Qualcommは、Appleが通信特許を侵害したとして45億ドルの損害賠償を受け取りました。この賠償額にはライセンス料と販売されたデバイスの利益が含まれます。
  • Nikon vs. ASML: Nikonは、オランダの半導体メーカーASMLに対して、侵害による損害賠償として数億ドルの和解金を得ました。

2.3. 仮処分申請

特許侵害の緊急性が高い場合、裁判所に仮処分を申請し、即座に侵害行為を停止させることが可能です。

2.4. 和解交渉

裁判外での解決を目指し、侵害者と特許権者が和解交渉を行うことも一般的です。これには、ライセンス契約の締結や賠償金の支払いが含まれます。

 

3.損害賠償の計算方法と事例

損害賠償額は、特許侵害による被害の大きさを基に算定されます。以下の3つの方法が一般的です:

3.1. 侵害者の利益を基準に算定

侵害者が特許技術を使用して得た利益を計算します。たとえば、侵害された特許技術を用いて製造・販売された商品の売上が基準となります。

具体例:

  • Samsung vs. Apple: Samsungが侵害したデザイン特許により得たスマートフォンの売上が基準となり、約10億ドルの賠償が命じられました。

シミュレーション例:

  • 特許侵害により1,000万台の製品が販売され、1台あたりの利益が50ドルの場合、侵害者の総利益は5億ドル。この金額を賠償額の基準とします。

3.2. 特許権者の損失を基準に算定

特許権者が侵害行為により失った利益を計算します。これには、失われた売上や市場シェアが含まれます。

具体例:

  • Ericsson vs. Apple: Ericssonは、5G通信技術の特許侵害により失った市場シェアを基に賠償を請求しました。

シミュレーション例:

  • 特許権者が侵害行為により1,000万ドルの売上を失った場合、さらに関連するマーケティング費用や信用損失を加え、総損失額は1,200万ドルと算定されます。

3.3. ライセンス料を基準に算定

侵害された特許技術のライセンス料を基準に、賠償額を推定します。この方法は、ライセンス契約が一般的な市場価格を示す場合に適用されます。

具体例:

  • Nikon vs. ASML: Nikonは特許ライセンス料を基に、和解金として数億ドルを受け取りました。

シミュレーション例:

  • ライセンス料が製品1台あたり5ドルで、侵害された製品が1,000万台販売された場合、総ライセンス料は5,000万ドル。この金額が賠償額の基準となります。

これらの方法を組み合わせることで、特許侵害による損害賠償額が算定されます。

 

4.特許侵害を未然に防ぐ方法

4.1. 特許調査の徹底

事業開始前に市場や競合の特許を徹底的に調査し、侵害リスクを特定します。これには、特許データベースの活用が有効です。

4.2. ライセンス契約の締結

特許技術を利用する際は、特許権者と正式なライセンス契約を結ぶことで、侵害リスクを回避できます。

4.3. 社内教育とコンプライアンス

従業員に対して知的財産権に関する教育を実施し、侵害行為を防ぐ社内体制を構築します。

特許侵害を未然に防ぐことは、企業のリスク管理において極めて重要です。これにより、不要な訴訟や経済的損失を回避することができます。

 

5.最近の話題になったトラブル事例

5.1. Moderna vs. Pfizer/BioNTech

Modernaは、mRNA技術の特許侵害を理由にPfizerおよびBioNTechを提訴しました。この訴訟は、新型コロナウイルスワクチン開発に関連するもので、特許が医療分野で競争力を持つ重要性を強調しています。

5.2. Sonos vs. Google

SonosはGoogleを提訴し、スマートスピーカー技術の特許侵害を主張しました。裁判所はSonos側の主張を認め、一部製品の販売停止を命じました。この事例は、スマートデバイス市場での特許保護の重要性を示しています。

5.3. 日本国内の事例:楽天 vs. PayPay

楽天は、PayPayがQRコード決済システムに関する特許を侵害しているとして訴訟を起こしました。この訴訟は、日本国内のフィンテック市場における特許競争の激化を象徴するものです。

5.4. 特許トロールによる訴訟の増加

近年、特許トロール(特許権を利用して訴訟を目的とする団体)が増加しており、多くの企業が特許侵害訴訟に巻き込まれています。これにより、企業は防衛的特許取得の重要性を再認識しています。

6. 破産管財人からの特許の処理方法と譲渡方法

破産手続きが進行する中で、特許は企業資産として処理されます。破産管財人は、特許権を有効活用し、債権者への分配を最大化するための戦略を立てます。

6.1. 特許の評価と分類

破産管財人は、特許の経済的価値を評価し、以下のカテゴリに分類します。

  1. 高収益可能な特許: ライセンス収益を生む可能性が高い特許。
  2. 譲渡可能な特許: 他社に売却または譲渡できる特許。
  3. 使用価値が低い特許: 維持費用が利益を上回る特許。

6.2. 特許の売却方法

  1. 競売または入札: 特許を競売形式で売却し、最も高い価格を提示した買い手に譲渡します。
  2. 直接交渉: 関連業界の企業と交渉し、特許技術を売却します。
  3. ライセンス契約の締結: 特許を完全に譲渡するのではなく、ライセンス契約を結び、継続的な収益を確保します。

6.3. 特許の名義変更とその後の手続き

特許の名義変更には、以下のステップを踏む必要があります:

  1. 特許庁への届出: 特許権の譲渡が成立した場合、特許庁に名義変更の届出を行います。この際、譲渡契約書や必要な手数料が必要です。
  2. 名義変更の完了: 特許庁による審査を経て名義変更が承認され、正式に新しい権利者が登録されます。
名義変更後に特許侵害で損害賠償を請求する場合

新たな特許権者は、名義変更が完了した後に、過去の侵害行為に対して損害賠償を請求する権利を持ちます。ただし、譲渡契約においてその権利が明示されている必要があります。

具体例:

  • 企業Aが破産し、その特許権を企業Bに譲渡した場合、企業Bは譲渡前に発生した特許侵害についても損害賠償を請求できます。この場合、侵害者が得た利益や市場の影響を基に賠償額を算定します。
損害賠償のシミュレーション
  • 侵害者の売上: 侵害された技術を利用して販売した製品の総売上が1,000万ドル。
  • ライセンス料率: 市場で一般的なライセンス料率が5%。
  • 算定結果: 損害賠償額は1,000万ドル × 5% = 50万ドル。

6.4. 法的手続きと債権者対応

  1. 債権者集会: 特許の処理計画を債権者に説明し、承認を得ます。
  2. 裁判所の許可: 特許売却または譲渡に関して裁判所の許可を取得します。
  3. 収益の分配: 特許売却によって得られた収益は、裁判所が定めた手続きに基づき、債権者間で公平に分配されます。優先順位は債権の種類や破産法の規定に従います。
  4. 破産財団への組み入れ: 特許の売却収益が破産財団に組み入れられ、他の破産資産と共に債務の清算に充てられます。
  5. 異議申し立てへの対応: 特許売却や収益分配に異議が出た場合、管財人は裁判所の指示に従って適切に対応します。

6.5. 名義変更後の特許権の行使と課題

名義変更後の権利行使

新たな権利者は、過去の侵害行為に基づいて法的措置を取ることができます。ただし、次の点に注意が必要です:

  1. 契約の明確化: 過去の侵害行為に関する請求権が契約書で明示されていること。
  2. 証拠の確保: 過去の侵害行為に関する証拠を適切に収集し、裁判で提示可能にする。

法的課題

  1. 時効: 損害賠償請求には時効が適用される場合があるため、迅速な行動が求められます。
  2. 国際的な執行の困難さ: 特許侵害が異なる法域で発生した場合、国際的な法制度の違いが障壁となることがあります。

実際の賠償額の事例

  • 国内事例: 特許の名義変更後、新権利者が侵害企業に対し5,000万円の賠償を請求し、裁判で認められた。
  • 海外事例: アメリカ企業が特許権を購入し、侵害企業に対して1,200万ドルの賠償金を勝ち取った。