2026年4月1日、特許庁からの書類を10日間受け取らないだけで「到達済み」とみなされる「経過到達」ルールが始まった。施行から半年が経過した今も、自社で出願を管理する中小メーカーや兼務の知財担当者がこの変更を把握できていないケースが散見される。期間を徒過すれば特許権が失われる可能性もある。制度の中身と実務対応を整理する。
何が変わったのか――「紙が来るまで待つ」は通用しない
特許庁は2026年4月1日、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(特例法)の改正を施行し、オンライン発送制度を抜本的に見直した。改正の核心は「経過到達」と呼ばれる新ルールの導入だ。
これまでは、特許庁がインターネット出願ソフト経由で拒絶理由通知や査定通知などを送っても、出願人がダウンロードしなければ最終的に紙で郵送されてきた。そのため「届いたら対応する」という運用が事実上成り立っていた。
改正後は、インターネット出願ソフトで書類が受取可能となった日の翌日から起算して10日(開庁日ベース、実質約2週間)が経過すると、ダウンロードの有無にかかわらず「到達したとみなす」と法律で規定された。この時点で発送日が確定し、拒絶理由への応答期限などのカウントが自動的に始まる。
さらに、これまで期間経過後の救済として機能していた「書面郵送への切替」も原則廃止された。経過到達となった書類は紙で再送されることはない。つまり、ソフトを長期間開かなければ、気づかないまま応答期限が進行し、最悪の場合には期間徒過で特許権の取得機会を失うリスクがある。
「10日」の正確な数え方——見落としやすい2つのポイント
「10日」の算出は、受取可能となった日の翌日を起算日とする暦日単位だ。ただし、特許庁の閉庁日(土日・祝日・年末年始)は算入されない。したがって、月曜日に書類が受取可能になった場合、暦上で2週間以上先に経過到達日が来る計算になる。
見落としやすい点は二つある。第一に、「10日」は開庁日ベースで数えるため、長期連休をまたぐと暦日数はさらに延びるが、逆に連休明けに一気に期限が来ることもある。第二に、担当者の出張や病気でソフトを起動できない場合でも、「申請人の責めに帰することができない事由」が認められなければ期間が進行する点だ。特許庁は少なくとも週1回程度の確認を推奨している。
- 起算日:書類が受取可能となった日の「翌日」
- 算入されない日:特許庁の閉庁日(土日・祝日・年末年始)
- 実質的な猶予期間:約2週間(閉庁日を除く開庁日ベースで10日)
- 救済措置:書面郵送への切替は原則廃止
誰が最もリスクにさらされているのか
最もリスクが高いのは、弁理士・弁護士に全件委任せず、自社でインターネット出願ソフトを使って特許庁とやり取りしている中小メーカーや、知財業務を兼務している担当者だ。なお、弁理士・弁護士等の「業として対特許庁手続を代理する者」はオンラインによる書類受領が法律上必須とされており、代理人経由の出願はこの問題が生じにくい。
問題が起きやすいのは次のようなシーンだ。(1)担当者が長期休暇・出張でソフトを確認しない、(2)担当者が異動・退職し、引き継ぎが不十分なまま放置される、(3)「紙が来るから大丈夫」という旧制度の認識が残っている——いずれも中小企業の知財現場では珍しくない。
また、対象となる「特定通知等」は拒絶理由通知書や特許査定だけでなく、特許証・登録証も含まれる。紙の証書を前提に保管・提出していた場合は、再交付手続が別途必要になる点も見落としがちだ。
今すぐできる実務対応——3つの整備ポイント
制度変更から半年が経過した今、まず自社の状況を点検したい。特許庁の一次資料(「オンライン発送の概要」ページ)では「特定通知等を受ける旨の届出」の提出状況を確認できる。届出が未提出のまま自社でオンライン出願を行っている場合は、現在の受信設定を確認することが先決だ。
次に、確認体制の整備だ。担当者が不在の期間をカバーできるよう、バックアップ担当者を設定し、ソフトの確認を属人化しない仕組みを作る。週1回の確認をルーティン化し、カレンダーやリマインダーで自動化するだけでも大きなリスク低減になる。
最後に、特許証・登録証の管理フローを見直す。紙証書が届くことを前提にした証拠管理・社内決裁フローが残っていれば、デジタルデータでの受取・保存に切り替える必要がある。紙が必要な場面(金融機関への提出、担保設定など)では、再交付手続を事前に把握しておきたい。
- 【点検】「特定通知等を受ける旨の届出」の提出・設定状況を確認する
- 【体制】バックアップ担当者を設定し、週1回の定期確認をルーティン化する
- 【管理】特許証・登録証の受取・保存をデジタルデータ前提に切り替える
- 【引継ぎ】担当者異動・退職時の知財手続引継ぎチェックリストに本制度を追加する
この制度変更が示す「知財手続のデジタル前提化」という潮流
今回の改正は、特許庁が進める手続デジタル化の一環であり、「紙をバックネットにしたアナログ運用」を終わらせる方向性を示している。今後も手続デジタル化は段階的に進む見通しであり、中小企業も含めたすべての出願人が「デジタル前提の知財管理」へ移行することが求められていく。
知財手続は一度の期間徒過が取り返しのつかない結果(特許権の喪失など)につながり得る。大企業のように専任の知財部門を持てない中小メーカーだからこそ、制度変更情報をキャッチアップし、シンプルで確実な確認体制を構築しておくことが競争力維持の基盤となる。
なお、具体的な手続の要否や期限の判断については、各社の状況によって異なるため、弁理士や INPIT の知財総合支援窓口への相談を活用することをお勧めする。
よくある質問
Q. 弁理士に全部委任しているので関係ないですか?
A. 弁理士・弁護士等の代理人は法律上オンライン受領が必須のため、代理人経由の出願はリスクが低いと考えられます。ただし、自社で一部の手続(実用新案、商標等)をソフト直接操作で行っている場合は該当します。代理人に委任している手続の範囲を今一度確認しましょう。
Q. 「特定通知等を受ける旨の届出」はどこで確認・提出できますか?
A. インターネット出願ソフトの「サービスメニュー照会/変更」→「特定通知等を受ける旨の届出の照会/変更」から確認・変更できます。詳細は特許庁の「オンライン発送制度の見直し」ページ(jpo.go.jp)を参照してください。
Q. 経過到達になってしまった場合、回復する方法はありますか?
A. 「申請人の責めに帰することができない事由」による場合は、期間の回復を求める手続(特許法第21条等)が認められる可能性があります。ただし要件は厳格で、単なるソフト未確認では認められないケースが多いとされています。具体的な判断は弁理士にご相談ください。
Q. 特許証も紙では届かなくなったのですか?
A. はい。2026年4月1日以降、特許証・登録証もオンライン受領が対象となり、紙での自動送付は廃止されました。紙の証書が必要な場合は、再交付手続を特許庁に申請する必要があります。
