特許×標準化を一体で攻める新審査制度

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2026年7月1日、特許庁が「標準戦略対応審査」の試行を開始した。審査請求から最大24か月後に審査タイミングを選べる新運用で、標準規格の策定スケジュールに合わせた特許戦略が可能になる。規格ビジネスに関わる中小メーカーや知財担当者にとって、特許を「稼ぐ武器」に変える好機だ。

何が変わったのか──「標準戦略対応審査」の概要

特許庁は2026年7月1日から、「標準戦略対応審査」の試行運用を開始した。これは、出願人または発明者が所属する企業が標準化活動(規格の制定・普及に向けた活動)を行っている技術に関する特許出願について、ユーザー自身が希望するタイミング──審査請求から最大24か月後──に審査を受けることができる制度だ。

従来の特許審査では、審査請求後は特許庁側のペースで審査が進む。ユーザーが審査の着手時期を能動的に後ろ倒しできる仕組みは、これまで存在しなかった。「標準戦略対応審査」はその慣行を大きく変えるものだ。

申請方法等の詳細は特許庁ホームページに公開されており、利用状況を見極めながら、ユーザーの意見も踏まえて柔軟に見直しを行うとされている試行制度である。

なぜ今、この制度が必要なのか──標準化と特許の「タイムラグ」問題

技術標準(規格)とは、複数の企業・団体が「この仕様で製品を作る」と合意した共通のルールだ。IoT通信、EV充電規格、医療機器の通信プロトコルなど、現代のものづくりでは規格への準拠が市場参入の前提条件になっている。

規格ビジネスの難しさは、規格が確定するまでに数年単位の時間がかかることにある。技術的な議論、各国の利害調整、パブリックコメントを経て規格が成立するまで、自社の技術が採用されるかどうか確定しない。一方、特許には出願から権利化まで一定の期間が必要で、さらに権利の有効期間は出願から20年と決まっている。

ここにタイムラグ問題が生じる。規格が固まる前に特許を取得してしまうと、権利の有効期間の一部を「規格策定待ち」という空白に費やすことになる。逆に規格策定が終わってから出願しても、先行出願した競合に権利を抑えられるリスクがある。

特許庁の発表によれば、研究開発と秘匿化・権利化(特許等)・標準化等を組み合わせることで、標準化と知財の一体的な活用を適切に進めることが有効とされている。「標準戦略対応審査」は、まさにこのタイムラグ問題を制度として解消しようとする試みだ。

中小メーカーの知財担当者が知っておくべき実務ポイント

「標準戦略対応審査」は大企業専用の制度ではない。むしろ、人的・資金的リソースに制約がある中小メーカーにこそ、この制度の意義は大きい。

中小企業が標準化に関わるケースは、意外と多い。電子部品、精密機器、センサー、材料・素材の分野では、業界団体の規格委員会に中小メーカーが参加していることがある。また、大手との共同開発・サプライヤー関係を通じて、自社技術が規格の一部に組み込まれる可能性がある事業者も少なくない。

このような企業が特許出願を行う際、これまでは「早く審査を受けて権利化しなければ」という焦りが生じやすかった。しかし権利化を急ぐあまり、規格の最終仕様と特許請求の範囲がズレてしまい、「特許はあるのに規格に効かない」という悲劇も起きていた。

「標準戦略対応審査」を活用すれば、出願後に標準開発の進捗を見ながら、請求の範囲が規格の核心をカバーするよう補正・調整する時間を確保できる。審査着手前に分割出願を活用して請求項を分けるといった戦略的な動きも取りやすくなる。

なお、この制度は「審査を遅らせる」だけでなく、「自分が選んだタイミングで審査を受ける」という能動的な権利戦略ツールとして機能する点が重要だ。早期審査やスーパー早期審査とは真逆の方向性の制度であり、使い分けの視点が求められる。

  • 対象:出願人または発明者が所属する企業が標準化活動を行っている技術に関する特許出願
  • 活用メリット①:規格策定の進捗に合わせて請求の範囲を磨く時間が生まれる
  • 活用メリット②:標準規格の核心に特許を「刺せる」確率が上がる
  • 活用メリット③:権利有効期間の「空白浪費」を減らせる
  • 注意点:試行制度のため、利用状況により運用内容が見直される可能性がある

「標準×特許」戦略を今すぐ始めるための3つのアクション

「標準化活動に参加している自覚がない」という中小企業でも、自社技術が業界標準の候補になっているケースがある。まずは自社の技術が、業界団体・学会・JIS・ISOなどの規格策定の場で議論されていないか確認することが第一歩だ。

次に、出願済みの特許または出願を検討中の技術について、その技術が規格に取り込まれた場合に「誰が得をするか」を整理する。規格準拠製品を製造・販売する事業者全員が実施者になり得るなら、その特許は将来的にライセンス収入の源泉になり得る。

最後に、弁理士や特許庁の無料支援窓口(INPITの知財総合支援窓口など)に「標準戦略対応審査の活用について相談したい」と伝えて相談予約を入れる。特許庁の産業財産権専門官も中小企業への無料訪問支援を行っており、個社の状況に応じたアドバイスが受けられる。

中小メーカーが「標準戦略対応審査」を活用するまでの流れ
1
STEP 1:接点確認
自社技術が業界団体・JIS・ISOなど標準化の場で議論されていないか棚卸しする。
2
STEP 2:出願・申請
標準化活動に関連する技術を特許出願し、「標準戦略対応審査」の申請を行う(特許庁HPで申請方法を確認)。
3
STEP 3:規格進捗の監視
標準開発の動向を追いながら、請求の範囲の補正・分割出願など戦略的な手当てを検討する。
4
STEP 4:希望タイミングで審査着手
規格の仕様が固まってきたところで審査を受け、標準規格の核心をカバーする特許として権利化を目指す。

まとめ──「出願して待つ」から「戦略的に時間を使う」へ

「標準戦略対応審査」は、特許を「取るもの」から「使うもの」へと発想を転換させる制度だ。規格策定という長い時間軸に合わせて、特許という権利を最大限有効に設定できるかどうかが、これからの知財戦略の分岐点になる。

中小メーカーが業界標準に関わる技術を持っているなら、この試行制度は見逃せない選択肢だ。試行期間中はユーザーの意見も取り込まれるため、今のうちに制度を活用しながら特許庁にフィードバックを届けることが、将来の制度設計にも影響を与えられる。

まずは自社の技術と標準化活動との接点を棚卸しし、弁理士や知財支援機関に相談することを強くお勧めする。本記事は法的助言を提供するものではなく、制度の概要と活用の視点を紹介するものです。個別の出願戦略については専門家にご相談ください。

よくある質問

Q. 「標準戦略対応審査」は誰でも使えますか?

A. 出願人本人または発明者が所属する企業が、標準化活動(規格の制定・普及に向けた活動)を行っている技術に関する特許出願が対象です。大企業・中小企業の区別はなく、標準化活動への関与が要件となります。詳細な申請要件は特許庁ホームページをご確認ください。

Q. 審査を最大24か月後にずらすと、特許権の存続期間が短くなりませんか?

A. 特許権の存続期間は出願日から20年です。審査着手を遅らせると、その分権利化が遅れるため、残存期間は短くなります。ただし、規格が採用された後の市場規模と照らし合わせて「権利が有効な時期に合わせる」ことが本制度の意義です。短くなるデメリットと、規格への合致度を高めるメリットをトレードオフで考える必要があります。

Q. 標準化活動に参加していない中小企業には関係のない制度ですか?

A. 現時点では直接利用できませんが、将来の布石として知っておく価値があります。また、サプライヤーとして大手が参加する規格委員会の技術を支えている場合、自社が実質的に標準化に貢献しているケースもあります。まず業界団体への関与状況を確認し、標準化活動への参画を検討するきっかけにしてください。

Q. 試行制度とは何ですか?正式制度とどう違いますか?

A. 「試行」とは、正式な恒久制度として確立する前に、実際の利用状況や問題点を把握するために期間を限って運用するものです。特許庁は利用状況を見極めながらユーザーの意見を踏まえて見直しを行うとしており、運用内容が変更される可能性があります。最新情報は特許庁ホームページで定期的に確認することをお勧めします。

出典:特許審査において「標準戦略対応審査」の試行を開始します(経済産業省・特許庁、2026年6月18日発表/7月1日施行)