2026年3月4日、日本の知財史に刻まれる一つの判決が確定した。最高裁判所第二小法廷(岡村和美裁判長)は、人工知能(AI)を発明者として記載した特許出願を巡る訴訟で出願者側の上告を退け、「発明者は自然人(人間)に限られる」とした一・二審判決を確定させた。裁判官4人全員一致という明確な判断だ。

■ 何が争われていたのか? 訴訟の経緯を整理する

この訴訟は、米国在住の出願者が2020年に日本特許庁に行った特許出願に端を発する。出願者は食品容器などの技術に関する装置の特許を出願する際、発明者欄に「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した。「ダバス(DABUS)」とは、英国の研究者スティーブン・テイラー氏が開発したAIシステムの名前だ。

特許庁はこれを受け、発明者欄の氏名を自然人の氏名に補正するよう命じた。しかし出願者がこれに応じなかったため、特許庁は2021年に出願を却下した。出願者は行政不服申立を経て東京地裁に取消訴訟を提起。一審・二審ともに請求を棄却され、最高裁でも同様の結論となった。

▶ 一審(東京地裁 2024年5月)の判断

東京地裁は「特許法に規定する『発明者』は自然人に限られる」と明示。現行法の制定時にAIの発達が想定されていなかったとしつつも、解釈論として現行法のもとでAIを発明者とする余地はないと判断した。

▶ 二審(知財高裁 2025年1月)の判断

知財高裁も同様の結論を維持。AIが自律的に行った発明の保護については社会的影響を踏まえた慎重な議論が必要としながらも、それは立法の問題であり、司法が解釈で対応すべきでないとした。

▶ 最高裁(2026年3月)の決定

最高裁第二小法廷は上告理由として主張された憲法違反等を認めず、上告を棄却。これにより一・二審判決が確定した。

■ 「ダバス訴訟」は世界的な争いだった

DABUSを巡る訴訟はなにも日本だけの問題ではない。同じ出願者・テイラー氏が米国・英国・欧州・オーストラリア・南アフリカ等でも同様の出願を試み、各国の司法・行政と争った。

国・地域 結論 備考
🇯🇵 日本 ❌ AI発明者を否定 2026年最高裁確定
🇺🇸 米国 ❌ AI発明者を否定 連邦裁判所が否定
🇬🇧 英国 ❌ AI発明者を否定 2023年最高裁が否定
🇦🇺 オーストラリア ❌ AI発明者を否定 一審肯定も高裁で覆る
🇿🇦 南アフリカ ✅ 条件付き認定 世界唯一の例外

現時点でAIを発明者として認める主要国は存在しない。世界の知財制度は足並みをそろえて「AI発明者NG」の立場を維持している。

■ 企業が今すぐ考えるべきこと

この判決が企業実務に与える影響は大きく3つある。

①「AIが作ったアイデア」の帰属を明確にせよ
ChatGPTや自社開発AIが示したアイデアを人間が理解・改良して出願する場合、そのプロセスを文書で記録しておくことが重要になる。将来の訴訟リスクに備えた「発明者不当認定」の防衛線として機能する。

②AIを「道具」として適切に位置づけよ
AIはあくまで発明の「道具」であり、最終的な創作性・判断を担う自然人が発明者となる。研究開発部門はAI利用のガイドラインを整備し、発明者が誰かを常に明確にするプロセスを設けるべきだ。

③法改正に向けた動向を注視せよ
特許庁・内閣知財戦略本部は既にAI時代の特許制度についての検討会を継続中だ。早ければ2027〜2028年にも特許法の改正が動き出す可能性がある。外資系企業との競争を見据え、自社の知財ポートフォリオを今のうちに点検しておきたい。

📌 編集後記:AIが自律的に発明する未来は現実のものとなりつつある。今回の最高裁決定は「現行法の限界を示した」に過ぎず、問題の本質——AIによる創作をどう社会として保護するか——は解決されていない。この判決は終わりではなく、新たな知財制度設計の「号砲」だ。